トヨタと日本 一連の不正の裏に横たわる日本らしさ

皆さんもニュースに気付いたことと思うが、先日トヨタグループで新たな不正が見つかった。日野自動車(2022/3)、ダイハツ(2023/12)、そして豊田自動織機(2024/1)だ。あまり大きく取り上げられていなかったが、実はそれ以外に販売店11社での車検不正(2021/9)、愛知製鋼での規格外鋼材出荷(2023/5)などという不正もあった。

ご存じのように、自動車産業はEV化の流れとそれにアラインするためのイノベーション合戦、国益優先の自国内生産優先政策でメーカーの生産地政策の急転換、EV化の流れが加速化すると見られる反面、ガソリン車、ディーゼル車の販売禁止の延期の流れ、BYDがテスラを抜くとう新興メーカーの台頭などなど、変化が大きくかつ早い。その中において、トヨタグループはハイブリッドで各国で叩かれる一方で、業績を伸ばし続け、目の敵にされ続けてきた。その裏で、生産革新を地道に続け品質向上とコスト削減の両立を実現するとともに、レクサスというハイブランド戦略も成功させてきた。

そのセクセスストーリーの裏に、絶え間ない努力があったことは疑問の余地がない。当然それに寄り添うように「GRIT」が根付いたのだと思う。それはもちろん尊敬に値することであることは間違いない。

 

現実的に洞察すると、その裏でどのようなことが起きていたのだろうか。以下に述べることはトヨタグループに限らず、何度も触れてきた多様な業界での不正などの根源的な問題に通底するポイントだと考えている。

企業が業績を伸ばし続けることは、マーケットを創造することと共に、競争に勝つことが重要視される。即ち、マーケティング(営業を含む)とイノベーション、そして品質とコストだ。先進的で魅力的な商品を他社に先駆けて追いつく暇を与えず間断なく出し続けることだ。それもローコストでだ。これがどれだけ困難なことかは容易に想像できよう。多くの場合その指針や計画はトップダウンで出される。そして、それは何が何でも実現しなければならないという圧力に昇華される。それが僕たちの使命なのだと。それが「GRIT」だ。

GRITは言うまでもなく「やり抜く力」などと言い換えられ、以下の4つで構成される。

Guts(度胸・根性)

Resilience(復元力・折れずに立ち直る・粘る)

Initiative(自発性・自分の意志で努力を続ける)

Tenaciity(執念・執着心)

これらは上記の様に業績を伸ばし続けるという観点でとても有用な価値観だと分かる。同時に、これらにはリスクも含まれる。もし、方針や目標が現時点で的確でなくなっていたらどうなってしまうのだろうか。行き過ぎたGRITが不幸な結果を招くことはよく知られている。この辺は以前にも書いたが、アダム・グラントの「THINK AGAIN」に指摘されている。GRITに溢れる人は「見たくないものは見えない」状況に陥っているかもしれない。即ち、マーケットの変化の予兆に気付かないかもしれないし、現場の疲弊やサプライチェーンの不満に気付かないかもしれない。気付かないのではなく、見たくないのだ。やり遂げることにだけフォーカスしている人には邪魔な情報なのだ。そして方針を変更するタイミングを失してしまう。

現場には「何が何でもやり遂げろ!」だけが染み渡る。そして不正が起きるのだ。今回の報道でも「不合理な開発日程の策定(豊田織機)」「過度にタイトで硬直的な開発日程(ダイハツ)」とある(日経新聞)。

更に、日本の組織にある特徴が悪さをする。日本では、リーダーはビジョナリーで部下を引っ張るタイプ、即ち的確な指示命令による強いリーダーシップが求められる。彼らが作る組織が「支配型ヒエラルキー(マシュー・サイド『多様性の科学』)」で、威圧と褒美/罰で組織を操作するために職場に心理的安全性が乏しくなる。否定的なことは言えないのだ。言うと懲罰の対象になってしまうということだ。「俺の言うことがきけないのか」と。報道では、「問題が適切に上司に共有される環境が整っていない(豊田織機)」「言ったところで何も変わらない(日野)」とある(日経新聞)。

即ち、「言っても聞いてもらえない」「できないと言えない」「相談しても『で!』といわれるだけ」日経新聞)そう、やむにやまれず不正をしたのだ。これは組織カルチャーそのものだ。それに向き合う幹部がいなかったのは間違いない。これが根本だと思う。

 

もう一つ触れておきたい。先ほど書いたリーダーシップやヒエラルキーはなぜ出来上がってしまうのかだ。Hofstede Insight japanの調査によると、日本は男性性が40ヵ国中1位であり、目標は必ず達成されるべき、それには絶え間ない努力が必要、強い者が支持される、という価値観が最も強い国なのだ。男性性とは誤解を恐れず言うと、相手に良かれと思って、こうあるべきだと指示したくなる、教えたくなる思考が強かったり、結果重視でもがく、あがく、必死になる価値観を重視するなどの特長を持つのだ。上記のようなことが起きやすい価値観だと気付く。

それに対して女性性とは、受け止めたいという気持ちが強く、寛容性が高く利他心が強い、柔軟性が高いなどの特長がある。もし幹部が男性性むき出しでなく、女性性とのバランスが取れていたら、このような企業カルチャーになっていなかっただろうと想像する。

 

「賢者は時を待ち、愚者は先を急ぐ」スピード第一で起業した企業より、様子を見て他社の課題を理解し対策を打ってから起業した企業の方が成長する。遮眼帯を付けてひたすら全力で走り続けるより、周りをよく見て落ち着いて行動した方が良い場合の方が多い。内なる心の声を聴き自分らしい道を歩ける他者の意見に耳を貸し客観的になる瞬間を待てる慌てるな、気付いている人は他にもいるはずだ。時にはこの言葉を思い出そう。

2019に始めたこのブログは、先日累計12万アクセスになった。
承認欲求は強くないと思っているが、より多くの人の役に立てば嬉しい。
こんなブログが役立つと思っていることが傲慢なのかもしれないが・・・