パーソル総研の資料を読み、腹落ちしたことを少し書きたいと思います。
昔から、「帰属意識」とか、「愛社精神」とか、行き過ぎた表現としては「社畜」だとか、一種の会社に対する「忠誠心」を評価する視点が存在しました。もちろん、それには理解できる面ととてもリスキーな面がありますね。そんな価値観のモヤモヤを見事に説明できる概念があったのです。
それは「ビロンギング」。
なんだ言葉を変えただけじゃないかとお思いでしょうが、少しパーソル総研の解説を僕なりに解釈して書いてみたいと思います。
僕は知らなかったのですが、そもそも「ビロンギング」という概念が世界の潮流になり始めているそうです。考えてみると、日本人における「帰属意識」は少し歪んでいるような気がします。即ち「滅私奉公」的な「個より集団を優先する」感覚、「会社のために」という価値観。なんだか戦争中の「お国のために」と同様の匂いがしますよね。即ち人材を一色に染める「画一化」即ち「一億総〇〇」みたいな感覚ですよね。
「ビロンギング」とはそれとは全然違う価値観です。パーソル総研の言葉を引用しますと、「ビロンギングとは『帰属意識』(訳は同じ)を意味しており、はたらく人々が所属する組織、グループなどにおいて、ありのままの自分が受け入れられ、『ここに居場所がある』と感じられる状態のことを言います」 同じ帰属意識でも全然違うでしょ。これがどれだけ今の時代に大切な価値観かは容易に想像できますよね。
少し解説しますね。ここからが重要なポイントです。「ビロンギング」はD&I(ダイバーシティー&インクルージョン)の文脈で語られます。D&Iがいかに大切かは理解されているものとして話を進めますよ。
「ダイバーシティー」を考えてみましょう。これは「多様な属性や個性、背景を持った人たちが集まっている状態」を表わしていますね。そして「インクルージョン」は「多様な人が集まり、そこにいる人たちが相互に関り、一緒にはたこうとする行動」を表わしています。「ダイバーシティー」は状態で「インクルージョン」は行動だと言っているわけです。
それに対して「ビロンギング」は、「ダイバーシティー&インクルージョンをベースにした、はたらく一人ひとりが感じる心地よさ、帰属意識」を表わしています。即ち「感情」だと言っているのです。先ほど述べたように自分が受け入れられ「ここに居場所がある」という一種の安心感だと僕は思います。
前にも書きましたが、日立製作所は、以前に退職した人の共通点は孤立だったと整理していました。その通りだと感じます。言い換えると、「ビロンギング」が欠如していたと言っているのと同じですね。ギャラップ社のエンゲージメント調査でも、社内に親友がいるかや、自分の意見が尊重されているかなど、「居場所感覚」が重要なことが明確に示唆されています。
「居場所」というのは人間の安息の地なわけです。よく言われるのは、ファーストプレイス、セカンドプレイスは「家庭」と「仕事場」である人が多く、スタバは自社カフェのことをサードプレイスと称していたわけです。自分にとってのサードプレイスを作ることはとても精神的に大切なことだと言われていますが、そもそもセカンドプレイスが存在しないとしたら、精神的にはかなり休まる状況にない、言い方を変えるとバランスが良くない状況と言えるかもしれません。
ここで想像してみましょう。先ほど書いた通り、古典的な日本人感覚では「ビロンギング」は一種の同化意識の現れのようです。和を重んじる、言い換えると予定調和を求める価値観、金太郎飴を作ろうとする圧力、言い換えるとムラ社会感覚。上司の強いリーダーシップによるC&C(コマンド&コントロール)による強い統制、目標達成圧力など、最近でもメディアに登場したビックモーターなど、未だに名のある大企業でも存在していることは残念ながら事実でしょう。
お気付きになった方も多いと思いますが、「ありのままの自分が受け入れられる」というのは「心理的安全性」そのものなのです。現在のありのままの自分、将来の在りたい自分、が受け入れられている(られる)と感じることができなければ、職場はセカンドプレイスたり得ず、自分・個性を殺して我慢して仕事を続けるか、転職するかしか選択肢はなくなります。前者を続けるならそこにWellbeingはありません。
皆さんの職場は「自分らしくいられる居場所」になっていますか? まわりの仲間、部下たちの顔を見てそう感じられますか? 首を傾げた方は、ではどうすればよいかを考えて行動してくださいね。とても大切なことです。