MMXは重要な課題

高度成長期の日本を支えたのは中間管理職だとよく言われる。現場改善をリードし、新しい取り組みを自らの判断で推進した。要するに権限が委譲されていて、自由にできたのです。

なぜ現代でそれができないのか。別に懐古主義なのではないですよ。昔はよかった~なんて思っちゃいない。なぜなら環境が今とは全然違うからだ。かの時代を思い出してみよう。世界が経済成長の真っただ中にあった。生活のレベルアップを目の前の現実として皆が渇望し、モノに飢えていた。日本人気質の真面目に高品質のものを低コストで作れば、国際競争力はどんどん増していった。良いものを作ればモノは売れ、ラインは増強され、工場は増築された。給与も上がり続け家計も潤い、それは新しいモノに置き換わった。子供は増え、学校はどんどん新設された。その回転は半世紀続き、GDPは膨れ上がった。

その間企業はどうなっていたのだろうか。製造現場も営業もスタッフも人手不足。社員はどんどん増えたがそれをマネージメントできる人材は枯渇していた。それにマネジメントのフレームワークもあまり存在しないし、人材育成も体系化してはいない。現場はトップの号令一下、根性と体力で24時間働けますか?なんて言っていた。あらゆるプロセスは現場のリーダー・管理職に任すしかなかった。しかし、ビジネスはシンプル。より良いものをより安くだ。イノベーションはほぼ「持続的イノベーション(改善)」をしていればよかった。現場のリーダー、中間管理職は水を得た魚のように働いた。働けば働くほど成果が出た。給与は上がった。家族も幸せだった。現場は拡大し、チームは増えた。リーダーシップ(率いるリーダーシップ)のあるリーダーはどんどん中間管理職に登用された。そして、中間管理職の地位やプライドは上がった。

そんな時代は、とうに終わった。持続的イノベーションを進めれば成長してく時代ではない。DGPは頭打ち。成長は止まったままだ。15年ほどそんな状況。水膨れした中間管理職。出世が唯一の成功だと思い込んでいる人にとっては、未来は光をもたらしてくれない。どうやって未来を切り開くのか、モチベーションを上げられないまま会社にぶら下がるのか。それで自分の矜持が満たされるのか。

サラリーマンの道は一本道の梯子のようなものなのだろうか。上がれないと知ってしまったら、どうするのか。下りるに下りられない人も多い。

人生は梯子じゃないんだ。道はいろいろある。それにどうすれば気付けるのか。自分の可能性をどうやって切り拓くのか。

人事は経営戦略そのものです。これは何度も書いていること。更に、今こんなことが言われ始めています。MMX 何だか分かりますか? 「ミドルマネジメント・トランスフォーメーション」です。中間管理職が再び思い切り輝く時代にしよう、というメッセージです。(何でもXを付ければもっともらしく見える風潮がありますね(笑))

さて、あなたならどうしますか?

考え、実践してみましょう。正解なんてありません。いろいろ試してみるしかありません。現場でできること、例えば、1on1のやり方を変える、ワークショップで議論する、経験者が自らの経験を話す場を用意する(ネット上でも良い)などのアイデアはすぐ浮かびますね。人事戦略としては、リスキリングの補助や、社内公募の制度を変える(例えば、若手を獲得したらシニアも獲得することを義務付けるなど)、メンターやコーチを付ける(社外の人が好ましい)、キャリアコンサルタントを活用するなどのアイデアがすぐ浮かびますね。それ以外にもいろいろあるでしょう。

 

山本寛氏(青山学院大学教授)の指摘を紹介しましょう。(パーソル総研の記事)

上記のように、ミドル・シニアのキャリア停滞が問題になっています。管理職位の不足によって、堅実に成果を上げているが昇進の可能性が低いミドル・シニアに対しての対策がほとんどされてこなかったので、モチベーションが高く成果を上げ続けてきた人の、モチベーションが下がり業績が低下してしまう可能性が高い、という指摘です。

これまで、キャリアの停滞は『キャリア・プラトー現象』として検討されてきました。プラトー(plateau)とは、直訳すると『高原状態』を指します。」その言葉は初めて知りました。「キャリアプラトー現象」には二つの種類があると指摘します。「昇進の停滞と仕事上の停滞」の二つです。「昇進の停滞、言い換えると『階層プラトー現象』は、『従業員が現在以上の職位に昇進する可能性が将来的に非常に低下すること』を示します。また、仕事上の停滞、言い換えると『内容プラトー現象』は、『仕事をしていて新たな挑戦や学ぶべきことが欠けていたり、ワクワク感や成長実感がない状態』をいいます。」

仕事の停滞にフォーカスして同氏の指摘を整理しますね。仕事の停滞には二つの種類がある。一つ目が「マンネリ感」です。「多くの仕事は3年でマスターすると言われています」専門性の凄く高い仕事以外そんな感じでしょう。皆さんもそう感じていると思いますが、ミドル・シニア世代は今までいくつかの仕事を経験してきたはずです。当然マンネリを感じた経験もあったはずです。「しかし、マンネリ感自体は『解消』することも多いのです。例えば、異動によって仕事や人間関係が変わる、研修などで刺激を受けることがそのきっかけとなります。つまり、マンネリ化→解消→マンネリ化→解消→…。このように、働く人の多くが、このサイクルを繰り返すのです。」私も実際そうでした。何度もマンネリを感じました。そんな時に運よく異動になったり、自ら異動を希望しそれがかなえられたり、研修で目から鱗の経験をしたり、同期と飲みに行って刺激を受けたりしてそれを解消してきたのです。ところが、異動すれば解決するとも言えなくなります。「しかし、ミドル・シニア人材でこの停滞が特に深刻なのは、人はキャリアを重ねるにつれ、異動や研修などの『変化』によるプラスの影響を受けにくくなるからです。そして、マンネリ状態が解消されても、20代のように、ワクワク感や成長実感がなくなるからです。」なるほど。私には自分に言い聞かせてきた言葉があります。それは「永遠のルーキーでありたい」ということです。常に新鮮な気持ちで新しいことを受け止めなければ人生は先細るという気持ちです。。

二つ目が「忙殺」です。「職場で与えられた仕事が量的・質的に過大で、社員の能力を明らかに超えている場合です。当然、目の前の仕事をこなすことに忙殺されてしまい、新しい仕事のやり方を工夫したり、仕事に喜びを見出せないことにつながります。この状況は、管理職、特に課長になりたてのミドル人材にも当てはまります。現在、多くの組織では、課長の多くがプレイングマネジャーといわれています。その結果、本来、管理職として、リーダーシップの発揮や部下の指導・育成に注力しなければならないのに、これまで同様1人のプレーヤーとしての仕事にかなり時間をとられることになります。その他、事務量が多く手間もかかる目標管理業務や会議への出席が増え、自分の課の将来を戦略的に考えること、自分が異動した時に備え後継者を育てていくサクセッション・プランを考える余裕などがなくなるでしょう。」以前書いた通り、管理職自身(課長以上の職位の人たちもそう感じている人が多い)の悩みの一つが「忙し過ぎる」ということでしたね。これは自らが意図的に権限を委譲したり、優先順位の高いものにフォーカスする(ハイレベルなことを優先する)ことなどで、乗り越えるしかありません。本来ミドルマネジメントはとてもやりがいのある仕事です。権限は委譲され、自らの志によって変革を進められる職位です。それなのに「作業」に忙殺されているのは、視座が昇格前と変わっていないということが最大の原因でしょう。私の知っている範囲でも、そういう方が多いと感じます。適切な権限委譲は部下の育成にも必要不可欠なことは分かっているはずですよね。もちろん、課せられた目標に対して圧倒的に経営リソースが少なく、現実的に廻らないケースもあります。その際は上司とちゃんと話し合うことです。必要なリソースを与えるのは上司の義務だからです。ジョブ型に移行する企業も多いでしょう。上司と客観的な洞察をベースにしてちゃんと話し合う必要がありますね。もちろん、その前に話し合える関係・素地を日常的に作っておく必要があります。

同氏は、上記の両方が同時に停滞(「ダブルプラトー(現象)」)すると、「マイナスの影響が大きくなることがわかってきました」と指摘します。「例えば、仕事上の停滞仕事への満足感や組織への帰属意識を低下させる関係は、昇進が停滞しているほど強まります。同じく、2つの停滞が重なった人の仕事への満足感や組織への帰属意識は、それぞれ単独の停滞の場合より低く、逆に、憂鬱感や転職したいという意思は昇進の停滞(単独)より高いという結果もみられました。」

とても納得性の高いレポートです。組織のトップやHRの方々が考えなければならないこともありますし、ミドルマネジメントご自身が考えなければならないこともありますね。決して惰性的な人生を送ることなく、常に新しいことに挑戦する姿勢が、人生を豊かなものにしていくことを理解することが大切ですね。そして、「意図的に行動を変える」ことなくして道は開かれないことを自分に言い聞かせることですね。道は開かれていることに気付くべきです。確かに年齢と共に「ウキウキ」「ワクワク」することは減ってくるかもしれません。流されていれば自然とそうなるでしょう。だからこそ、「意図的に生きる」ことが何よりも大切だと感じます。

 

(参考)

コラム - パーソル総合研究所 (persol-group.co.jp)

いろいろなコラムは参考になりますよ。

積み上げてきたものだけでは勝負はできません。
常に新しいものに入れ替え続けなければ、価値は間違いなく先細るものです。