「ゆるさ」は部下のWellbeingを削いでいく

厚労省の調査によると、大手企業の新入社員(入職3年未満)の離職率は、2009年卒の20.5%から、2017年卒の26.5%へと上昇しているそうです。恐らく現在では(人手不足の環境変化などにより)更に大幅に上昇していると考えられます。

働き改革が進み、働きやすさは徐々に改善してきたはずなのに、なぜなのでしょうか。NewsPicksにリクルートワークス研究所主任研究員古屋さんの話が紹介されました。どうやら、働きやすさは若者のやる気を削いでいるようです。

彼はこう定義します。「『ゆるい職場』とは『若者の能力や期待に対して、著しく成長の機会や労働の質的な負荷が乏しい職場』です。」「ゆるい職場」とはのんびりしているとか、ノルマが低いとかいう話ではないのです。このままだと、成長しないのではないかと危機感を感じるという感覚なのでしょう。優秀であれば、多くの人が将来に対して大望を抱き、こう在りたいというビジョンを持っているでしょう。しかし、このままではそれが実現できそうもないと感じてしまうのでしょうね。

同社が2022.3に調査したところ、大卒以上の入社1~3年目の社員の約36%が「職場がゆるい」と感じているという結果になったとのことです。これは驚きです。

先ほど書いたように、働き方改革法などにより、職場環境が急速に改善され、労働時間が急速に減少しました。その結果、OJTやOFFJTは急速に減少傾向にあるとのことで、上司や先輩から放置されている人が多いということを表わしていると指摘しています。

 

昔はどうだったのだろうか。エピソードを話しましょう。私が新入社員だった頃、私はいわゆるB2Bの営業職で毎日外回りをしていました。夕方職場に戻りレポートを書き、それを先輩(上司ではない)が丁寧に読んでくれてアドバイスをしてくれます。その後飲みに行くのです。それがほぼ毎日です。彼は、僕を一人前の営業マンに育てることを自分の使命だと感じていたのだと思います。ご自宅にも何度も招かれ、奥さんやお子さんも良く知っていました。良い悪いではなく、そのような濃密な関係は僕の人生に大きな影響を与えました。一方その後異動した職場では、テーマを与えられ、あとは自由にやらせてくれました。ほぼ放置です。どの顧客を狙いどうアプローチするかはすべて任せられていました。提案書などの資料作成も具体的にアドバイスしてくれるわけではありません。しかし、身の回りには知財が転がっていました。たくさんの提案書や見積などの顧客向けの資料がたくさん存在していたのです。僕にはそれが教科書だったわけで、それを学び応用し、分からないことがあれば先輩に聞くという毎日です。そのお陰で私は急速に自律していったとも言えます。

時は進み、今から20年程前、私が事業部長だった頃、その事業部に新参者として異動してきた僕は、その事業部の問題点を薄々感じていました。そして行ったのがオリジナルのエンゲージメントサーベイです。無記名でアンケイートを取ったのです。その中の自由記述欄に書かれていた内容は今でもはっきり覚えています。「私は入社してから上司に怒られたことも褒められたこともありません」 これは、全くフィードバックをもらっていない究極の放置だと感じました。これがトリガーとなって僕は事業部のカルチャー変革に取り組んだのです。

実は、放置は最近始まったことではありません。職場や上司と部下の関係や、カルチャーは昔から多様だったのです。ただ言えることは、近年働き方改革法などにより、ホワイト過ぎる職場や上司と部下の距離が広まっているということは間違いない、ということです。実は、若い人の多くは「もっと仕事がしたい」「もっとチャレンジしたい」「もっと学びたい」のです。しかし、上司からは放置、そして口を開けば「残業するな」です。そう、その成長欲求を上司や職場が阻害している可能性が高いと感じているのです。彼らは「もっと鍛えてほしい」のだと思います。

管理職の皆さんは、その願いに応えていますか?

 

いわゆる経営コンサル企業は、入社して3年くらい徹底的に知識を詰め込まれるのだそうです。今でもブラックだと言われるくらい厳しい企業も多いようですが、「最初が肝心」を実践するがごとく丁稚奉公のようにハードワークを要求されるのです。知識は詰め込めばいいとは思いません。しかし、詰め込まないとベースラインが上がりませんね。(基本を)詰め込んだうえで、自分の力で応用する(基本があっての応用)をつけていくしかないのです。即ち、新入社員のうちに必要なスキルを習得させ、それを自分の力で考え応用していく機会を上司が与え、その姿を見守りながら必要なコーチングをすることが大切なのです。経験を積むプロセスを上司が設計し提供するのです。そうして実力をつけていくことにより、会社に対するロイヤルティーとチームに対する信頼関係を醸成していくのだと思います。

ハードにすることが必要不可欠だと言っているわけではありません。成長欲求にどのように応えたら良いのかを上司や職場は真剣に考え戦略的に設計し、実践していくことが何よりも大切なのです。それは在宅だから不可能なわけではありません。手段は多様です。部下と真剣に向き合うこと、オープンで密なコミュニケーションを意図的に作ることを実践してください。一人一人に何を期待しているのかを明確に伝えてください。例えば四半期ごとに何ができるようになってほしい位のテーマと期待レベル(段階的にレベルを上げる)と提示し、フィードバックしてほしいのです。部下は、必ず期待に応えようと努力するはずですし、そのプロセスでロイヤルティーはどんどん増していくはずです。

その結果、Wellbeingの実感は深まっていくはずです。

日常の中に不思議な出会いがあり、驚くべき発見がある。
そんな人生は設計できるわけではない。
とても不思議な映画だった。