迷える1on1を実のあるものにする

1on1が企業の中に定着して久しい。しかし、必ずしもそれによってモチベーションが上がったり、心理的安全性が上がったり、コミュニケーションのハードルが下がったりなど、革新的な変化を味わっている人は案外少ないのではないでしょうか。以前に書いたような気がしますが、統計では、上司は定期的にちゃんと1on1をしていると答えている人が圧倒的に多く、部下は1on1をやってくれないと答えている人の方が多いのです。それくらい、ギャップがあるということですね。上司は手前味噌だということなのです。

そんな迷いがあるであろう管理者の皆さんに向けて、感じていることを少し書きたいと思います。参考になれば幸いです。

1on1は関係を発展・進化させるチャンスだと理解してください。

部下に自分の考える「正解」を押し付けないでください。腕組みなど圧力を与えるような態度や話し方は決してしないでください。部下の自律を促し自信をつける場にしてください。即ち、考えるチャンスを与えてください。部下が迷ったり意見を言うことを躊躇していたら、その空気を暖かく飲み込んであげてください。口を開きやすくするためのヒントやサンプルを出してあげてください。どんな球が飛んできても、決して否定せず壁打ちの壁になってください。何度でも何度でも打ちやすい球を返してあげてください。即ち、シンプルに言うならば「そう思う」とか「そう思わない」というような一種の判断を伴う球を返さない方がいいです。もちろん、「共感」を表わすレスポンスは大いにしてください。「そう思わない」時は、「そう考えているんだね」と受け止めてあげてください。そして、そこから優しく質問をしてください。「どうしてそう思う?」とか「どういう時に?」というようにです。それが壁打ちです。上下の関係ではなく、壁打ちの相手になるのです。部下が何も話す気がないというオーラを出しているなら、あなたとは壁打ちをするつもりはない時間の無駄だ、という強烈な否定的メッセージを出していることになります。それは部下に問題があるのではなく、普段のあなたの姿勢に問題があるから起きることだと気付いてください。あなたは、修行のつもりで思い切りインクルーシブな態度に振り切ってください。絶対に短気になってはなりません。あなた自身も徐々に慣れてくるでしょう。

エール㈱の櫻井さんは、同じように「きいて」いるようでも、自分の視点でジャッジメント(評価判断)を入れながら耳を傾けるのは「聞く」で、相手の視点で自分のジャッジメントを入れないで受け止めることを「聴く」と分けて表現しています。もちろん、上司と部下の関係を発展させるための1on1は後者を大切にしてください。実は、1on1という定期的に意図的に作る場以外の、日常的なコミュニケーションも同様なのです。部下に自律的に考えるように促すためには、「聴く」即ち「傾聴」の姿勢が必要不可欠です。仕事上の意思決定も、上司が一方的に「ああしろ、こうしろ」と指示をしてしまうのではなく、例えば「どういう状況?」「どうなると思う?」「どうした方がいいと思う?」「なぜ?」・・・というような壁打ちを続けることによって、部下の意思を確認したり、自分で解決できることをその場で理解させたりするのです。「そうだよね。どうだい? できる気になってきたでしょ」と背中を押すのです。

上司は誠心誠意「傾聴」することによって、部下の本音や悩みや迷いなどが透けて見えるようになります。そうです、「直観」が働くようになるのです。部下の自律を手助けするのは、そのようなときですね。自信を持つように勇気づけてあげてください。責任を取るのは上司なのですから。最後は「任せるよ」です。「指示」をするのが上司の務めだと思っている人が多いと思いますが、それは大きな勘違いです。上司の務めはあるべき方向に「導く」ことです。

「傾聴」しながら深く観察してください。そしてタイムリーな「質問」(リターン)を繰り返し、「共感」や「承認」を繰り出してください。部下は自分で考え、自信をもって次の行動に進むでしょう。

「傾聴」「直観」と部下との関係が深くなってくると、上司は部下のことに対してより「好奇心」を持つことになるでしょう。部下に対してそんな気持ちが根付いてきたら、完全に関係は発展・進化したことになるでしょう。部下は上司との対話を安心した気持ちで楽しむでしょうし、何も隠さず自分を晒すようになるでしょう。いつも見守られている気持ちになり、上司に包まれながら、自律・自立していきます。これが「エンパワーメント」ですね。

秋の空は独特だ。気持ちがクリアなときに見る青空ほどスカッとするものはない。
コミュニケーションもそうありたいものです。
@富士見台高原