壁打ちの修行は上司の基本

「壁打ち」とは何なのかご存じだろうか。昔空き地に作られた「ネットの線の書かれた緑の壁」に向かってひとりテニスを楽しむことと、思い出すかもしれない。実はもう一つ重要な意味がある。壁の役になってあげて、聴き役に徹し会話の相手になることを言うのだ。

実は、コーチングとかメンタリングにおけるとても重要な役回りを象徴する言葉でもある。言い換えると、上司が部下との1on1において真の目的を達成させるためのポイントを的確に示した行動指針でもある。真の目的とは、自分の力と意志で問題を解決できることに気付くことだ。

以前に「傾聴」の大切さを書いた。もちろん、「傾聴」とは相手の話を真剣に心で聴くことだが、相手が話してくれなければ何の意味もない。それも胸襟を開いて話してくれなければ1on1の意味はない。そこに「壁」の技術がある。まず「壁」からサーブを打つ。そう、「壁」即ち上司からサーブを打つのだが、ここで最も重要なのは相手が返しやすいサーブを打つことだ。つまり、難しい質問をしたり、ハイレベルすぎるテーマ出しをしないことだ。第一段階はラリーを長く続けることだと考えてほしい。相手が初心者であれば(ビジネス経験の浅い部下)、上手く返せない。しかし、どんな球がこようが「壁」は再び返しやすい優しいレシーブをするのだ。ともかく、それをたくさん続けるよう努力してほしい。

実はこれは結構難易度が高い。即ち、ラリーはなかなか続かないものだ。会話が滞る(主に部下が固まったり、ピンボケは返事をする)わけだ。滞らなくとも意味のある本質的な会話にいつまでたっても到達しない。「壁側」のレシーブが下手だとそうなってしまう。優しいようで、レシーブを返すたびに本質に近づくように優しく返しやすく会話の方向を掘っていくのだ。イメージを膨らませたり、言い換えたり、比喩を使ったり、一歩踏み込んだ質問をしたり、合意、共感、反芻したりなどなど、いろいろなテクニックを使ってラリーを続けるのだ。イメージが湧かなければ書店でにたくさんあるコーチングの本を探してみるといい。ヒントがたくさん載っている。

以前にも書いた記憶があるが、1on1が普及してきた数年前、ある企業がアンケートを取った、上司に対しては「1on1をやっていますか?」。部下に対しては「1on1をやってもらっていますか?」だ。「YES」と回答した比率は、面白い位前者に比して後者が圧倒的に低いのだ。即ち、上司は「やっているつもり」、部下は「やられた記憶がない」だ。このギャップはいかに「壁打ち」が下手でラリーが続かないかを示していると言っていいだろう。

 

「壁打ち」を意識すると1on1はまるで奇跡の様に開かれていくし、人生が変わっていくことは間違いない。

テニスの「壁打ち」も対話の「壁打ち」も練習あるのみなのですよ。イメージしてチャレンジしてみよう。

ラリーが続けば、キャリアの階段を上がっていける。そんな壁打ちを実現してほしい。