「コンセプチュアルスキル」とは

今日は、「コンセプチュアルスキル」について書きたいと思います。以前、私はある企業から依頼されて、幹部に登用する際の評価軸に関してアドバイスを求められました。その際にビジネススキルをどのように評価すべきかをレポートしたことがあります。その時に提示した一つが「コンセプチュアルスキル」でした。今回は一般的にどのように解説されているかに触れながら、私の考えも書きたいと思います。この大切さを理解すると、部下の育成や評価の仕方に一つの確固たる軸ができ、ビジョナリーなメッセージを出せると思います。

 

皆さんも感じているように、ビジネスとは正解のない答えを探求することです。環境は常に変わり、常に陳腐化との闘いを余儀なくされ、想像していなかった競争相手と闘うことも当たり前になり、時間や知財、ビジネスモデル、コスト…あらゆる観点でいかに競争優位性を作り上げるかの闘いなわけですね。

従って、時間をかけずにかつ広範に情報を集め、分析し、複雑で複合化している状況を概念化してその本質を見極めることが極めて重要になるわけです。「コンセプチュアルスキル」は「概念化能力」とも言われています。抽象化して考える力とも近い考え方です。

 

「コンセプチュアルスキル」が高い人の特徴をいくつか挙げてみます。

問題の本質に辿り着けるので、効率的に解決ができます。実は、なぜそうなってしまったのかを分析しようとしても、表面面のことに目を取られてしまい本質に辿り着けない人が多いと感じます。だから、同じ過ちを繰り返すのです。

古い慣習やフレームワークやルールに縛られず問題を解決できます。バイアスから開放されるわけですね。

同様に自由な発想になれるので、イノベーションが起きやすいのです。

なぜやるのか、目的は何なのかなどの本質に立ち返れるので、明らかにパフォーマンスが高くなります。外野の邪魔やノイズに惑わされることがありません。

「コンセプチュアルスキル」が高い人は、アンテナが高く好奇心が強いことが知られています。視野も広いでしょう。即ち、「ピンとくる」能力に優れています。従ってリスクマネジメントも得意ですし、状況判断もスピーディーです。

目先のことにとらわれずに、今やるべきことにフォーカスできます。今の役職ポジション以上のハイレベルの視点で物事を捉えることができます。

なぜそうなのかの本質を語るので、話しが分かりやすく共感しやすい。コンセプチュアルスキルの高い人のつくった理念やビジョンは皆の理解を得やすいのは間違いありません。

本質を語り、それを理解させることができれば、権限委譲が進みます。その基本的考えに沿って、あとは自分で考えて行動してくれればいいですよ、というように。

こんな感じでしょうか。

 

さて、皆さんはこれを聞いて、これってかなり上位マネジメント(幹部)に求められることでしょうと、思われたかもしれません。少し解説しますね。

元々「コンセプチュアルスキル」とはハーバード大学経営学教授のロバート・L・カッツ氏が提唱したもので、彼は同時にカッツモデルを定義しました。マネジメント層には、

テクニカルスキル(業務遂行能力)

ヒューマンスキル(人間関係能)

コンセプチュアルスキル(概念化能力)3つの能力が必要であるというものです。

そして、マネジメント層を、

ロワーマネジメント(チームリーダーなど現場を監督する)

ドルマネジメント(部課長などビジネス組織を広くマネジメントする)

トップマネジメント(経営層) の3つに分けて、先ほどの3つのスキルがどのように必要かを述べているのです。

彼の論点は、テクニカルスキルは昇格するにしたがって徐々に必要性が減っていき、コンセプチュアルスキルは徐々に必要性が増えていく。ヒューマンスキルの必要性は変わらないというイメージです。

実は、それに対してドラッカー教授は少し違ったモデルを提唱しました。3つのスキルに加えて、マネジメントスキルを定義し、それが徐々に増えていき、コンセプチュアルスキルはすべてのマネジメント層で同様に必要だというものです。

 

皆さんも認識されているように、変化の激しい現代では、考えるのは幹部、現場は上司の指示に従ってその通り行動するだけ、というわけにはいきません。権限は部下に委譲され、自分で考え自分で判断し即行動することが求められますし、そうできなければ競争に負けてしまうでしょう。であるならば、私はロワーマネジメントであっても同様に「コンセプチュアルスキル」が強く求められる時代だと確信します

ということは、若い部下に対しても、その教育や動機づけ、コーチングが必須だということです。これを忘れてはなりません。

 

「コンセプチュアルスキル」は目の前に起こっていること、様々な情報を消化し、「ということはこういうことだろう」と「考える力」「想像する力」だと理解いただけましたか。即ち、ビジネス環境の中で、方程式で解けないもの、形のないもの、未知のものを扱う力とも言えるわけですね。

 

さて、最後に「コンセプチュアルスキル」を構成する10の要素を書きたいと思います。

1. ロジカルシンキング(論理的思考) いうまでもなく、論理的に整理できる力ですね。もちろんどのような世の中になろうが重要な能力ですが、一つ注意しなければならないのは、現代の様に問題が複雑化しすぎている状況では、ロジカルに分析できないことが多くなっています。いくら分析に時間をかけても分からないわけです。そのようなときには、デザイン思考の出番です。そして、試してみるしかないのです。ロジカルシンキングの沼にはまってはなりません。

2. クリティカルシンキング(批判的思考) 物事の前提を疑って批判的にみることです。人間には「これはこういうものだ」というバイアスが根深くあるものです。特にメンバーが長期間固定しているムラ社会にありがちです。常に疑う視点が必要なのです。

3. ラテラルシンキング(水平思考) あまり聞かない言葉ですね。経験や常識に囚われず、別の視点から見てみることです。想像力を飛ばして考えるという感じですね。利用シーンを変えてみるとか、こんなニーズもあり得るのではと想像するとかですね。

4. 多面的視野 自分と異なる視点で考えることです。見方を変えることによって本質に近づくという意味ですね。社外から見るとこう見えるとか、顧客から見るとこう見えるといった具合です。これもムラ社会の視点から開放されるために有効ですね。

5. 受容性 自分と異なる意見を受け入れる力です。ダイバーシティーが重要になった現在では特に重要かもしれません。多様な価値観を受け入れなければイノベーションは起きません。公平公正な価値観とも通じますし、受け止める力、即ち「女性性」とも深く係わってきますね。これが、苦手な人が多いと感じます。男性性の強いリーダーが陥りやすい罠です。

6. 柔軟性 何が起きるか分からない時代です。マニュアル通りに解決できないことも多いはずです。バイアスに縛られず臨機応変に行動する力が重要ですね。前にも触れたアダム・グラント著の「THINK AGAIN」で指摘していることとも通底します。

7. 知的好奇心 未知のものに興味を示し、調べ取り入れる姿勢です。特に日本企業は組織が縦割りで境界を出ようとせず、同じ会社であっても自社のことを知らないことが多すぎます。それではコラボレーションも起きません。まるで、組織の外には興味がないようです。知的好奇心がコラボレーションを起こし、組織の風通しを良くし、クリエイティビティ―を向上させるのだと思います。

8. 探求心 物事に対して深い興味を感じ、深掘りたいと行動することです。なぜ?なぜ?と執着することによって、見えないものが見えてくるものです。

9. チャレンジ精神 やってみる前から無理だとあきらめるのでなく、果敢に挑戦する姿勢です。ビジネスに失敗はつきものです。大けがしないようにすればいいのです。挑戦は未来を拓くし、成長をもたらします。活き活きした組織カルチャーも生み出します。

10. 俯瞰力 全体像を見る力と言っていいでしょう。私は上空1万メートルから見下ろしてみるとか、メタ認知だとか、抽象化するといった表現をします。広く見る力はビジネスにおいて最も重要なスキルの一つです。俯瞰力に裏打ちされた物語はとても共感できるはずですね。

 

どうですか? ご自分のビジネススキルを自分なりに評価してみてはいかがですか? 他者にフィードバックを求める手もありますよ。

このような能力はネイティブなものと思われがちです。もちろん、その要素がないわけではないでしょうが、努力によって磨くことはできます。そして、ほとんどの場合は頭では分かっていても、行動できないというケースではないでしょうか。そのためにコーチが存在します。なぜ躊躇してしまうのか自分に問いかけてみましょう。

見渡せば違った世界に気付くはずです