GRITと再考

今から25年くらい前のことです。スタッフの部長に異動し、ITサービス事業を担う事業部を対象とした「上級セールスマンコース」のコンテンツを作っていました。ポイントは「スキル」。スキルというと「業務ノウハウ」とか「テクニカルスキル」を思い出すでしょうが、そればかりに目を向けていると見逃してしまう重要なポイントに気付いて欲しいという狙いの教育です。例えば、いかにテクニカルスキルに優れた天才でも、問題が起きている現場で第三者になってしまい、事実に向き合わなければ誰からも信頼されません。そのように「スキル」を支えるものがあるはずです。それに気付き、その本質に向き合うことを求めるのが主旨です。

 

それを我々は「ベーススキル」と呼んでいました。本当は「スキル」ではなく、マインドセットとか行動原則という類です。

 

例えば、当事者意識、執着心、責任感、チャレンジ精神、突き詰める力、好奇心、先見性・・・などというものです。ビジネスマンとして成果が出ない時、その理由を分析し同じ過ちを犯さないようにする取り組みは非常に重要ですが、多くの場合はその結論は表面的で何の学びにもなりません。例えば、なぜコンペで敗退したか? 分析した結果が「価格が高かったから」「提案書の技術点が足りなかったから」・・・という具合ではただの現象でしかなく、何の反省材料にもなりませんね。なぜもう一歩踏み込まなかったのか? なぜもっと情報を収集しなかったのか? リソース不足ならなぜ上層部に直談判して要員を借りなかったのか? 等々多様な反省があるはずですね。なぜそのような妥協や甘さや躊躇や危機感の欠如をしてしまったのか? その裏に何があったのかが「本質」でしょう。その「本質」に向き合わなければ学びと成長はないと強く思います。例えば、「誰かがやってくれるだろうと、当事者意識が足りなかった」と反省すべきですね。

 

そうです。実は問題の原因の多くが「ベーススキル」の欠如なのです。私はクライアントに、部下との1on1でその本質に向き合う(ベーススキルの欠如に向き合う)コーチンをするよう促しています。それが人材育成に最も重要で、実は欠落している要素だと思うからです。

 

さて、その10年以上後によく言われ始めた言葉があります。皆さんもよくご存じの「GRIT」です。「やり抜く力」などとも言われます。Guts(度胸)。Resilience(復元力)。Initiative(自発性)。Tenacity(執着)。の4つですね。  

 

さて、皆さんもお気づきの通り、「ベーススキル」と「GRIT」は酷似しています。私はそれらがビジネスパーソンにとって最も重要なマインドセットだと思っています。

 

ところが、最近の研究でGRITの問題を指摘した人がいます。アダム・グラントです。彼は最新の著書「THINK AGAIN」で、考え直すことの重要性を研究によって解き明かしています。その中でこのように書いています。「回避可能である失敗を回避できないのは、立場固定バイアス*によるところが大きい。だが、もう一つ大きな原因がある。それは皮肉にも、私たちが成功の原動力と崇めている資質「根性(GRIT)」だ。根性は情熱と忍耐の掛け合わせであり、人を長期的な目標に向かって突き動かすエンジンの一部であることは研究でも明らかになっている。ところが、再考という観点から見るとマイナスな資質になりかねない」

 

ビジネスや人生で成功や幸せを勝ち取るために重要なことの一つは柔軟性です。バイアスに囚われ、間違いを認め方向転換できない人は多い。変化の激しい現代、情報にビビッドでいるとともに、慧敏に考えを改め(再考)、行動を変えることが求められています。

 

それなのに、一度決めたことから離れられない(船は錨を下ろすとそこから離れられないことに似ていることから、「アンカリング」とも言います)ことはリスク以外の何物でもありません。それにステークホルダーから、「もう状況は変わったのに・・・」「意地っ張り」とか「強情な奴」だと思われる可能性すらあります。

 

GRITは素晴らしいマインドセットです。しかし、時としてその頸木から逃れられなくなる。必要なことは、客観性、オープンな心、素直な反省、変化のセンシング力、コミュニケーション量などではないだろうか。

 

*立場固定バイアスとは:「目標に打ち込んでいる時は考え直さないことが多い。失敗していると分かっていても戦略転換せず、固執し大金を投じ続ける起業家などはたくさんいる。そのパターンを『立場固定』という。心理的バイアスの一つ。」

退職と共に新しいサイトに場を移し、再開したブログ。
先日で10万アクセスを越えた。数えると164通アップしていた。
正に「ちりつも」。
社内ブログを始めてから20年以上経つと思う。もはや習慣かもしれない(笑)
よく飽きないねと思うかな? 僕自身もそう思う(笑)