直球と変化球 王道を行きたい

以前に勤めていた会社でのエピソード。「直球勝負」の昔話です。
昔ある大手シンクタンクと協業していました。その時が初めてのお付き合いです。彼らのパッケージソフトを担ぎ我々が営業していました。営業とプロジェクトマネジメントを我々が担い、開発をその会社が分担するというチーミングです。彼らのノウハウとパッケージの機能が評価され、受注をしたものの、プロジェクトはうまく行きません、このまま進めると大赤字間違いなしという状況で、話は先方の上層部に上がり、私は彼らの御前会議に呼ばれました。40歳少し前のころでしょうか。
話はすれ違い平行線。彼ら幹部はITサービス事業の何たるかを、リスクも含めて分かっていませんでした。こうなったのは誰の責任なのか。すべて当社に押しつけようとしました。私は一貫して事業の性質と上流での顧客との仕様調整、その上でのプロジェクトの見通しとそのコミットメントの重要性を説き、突っぱね続けました。時正に夏休み。限られた休みの中、家族四人で小さなコテージに泊まっていた夜、上司からの電話。先方の専務が怒っていると。「何故清水は休んているのか」とお怒りだと。ささやかな一泊の夏休みはその瞬間なくなり、すぐ荷物をまとめて泊まらずとんぼ返り。次の日にはその会社を訪問していました。とはいえ、状況は打開するわけでもなく、平行線のまま開発は続きます。
さて、どうなったでしょうか?
最終的には、同社の副社長が登場し、私と面談。彼は初めて会った私のことを「清水さんは剛速球投手ですね」と笑い、折れてくれました。赤字の多くは彼らが負担し、プロジェクトは完遂しました。実は副社長は以前親会社にいたときに当社と付き合いがあり、信頼関係があったことを後日知りました。その方が登場しなかったらもっと尾を引いていたでしょう。僕の人生にはこのように運命の扉が突然開いたことが、何度もあります。
 
プロジェクトは完遂したものの、後日談があります。同社はそのチームを解散し、その事業から撤退したのです。
この事業を続ける限りこの手のリスクから逃れられなく、それを回避する実力も、そのための投資原資もないと判断したのでしょう。要はビジネスとして成り立たないと判断したのだと思います。
シンクタンクの多くは親会社が金融系です。親会社向けの仕事をしているぶんには、リスクなどほぼないのですが、競争社会で利益を出すことの難しさを、親会社からきた幹部には理解できなかったのでしょう。実はそのチームはシンクタンク部門と合体したIT子会社のチームだったのです。そのチームの意見など聞き入れられなかったようです。とても残念だったことを覚えています。
 
元々私はとても不器用な人間です。だから直球を投げるしか能がない。その本質は今でも変わっていないと感じますが、流石に少しは学習し、戦略的な変化球の投げ方も学びました。直球しか投げられない人は、大けがをする可能性があります。相手が折れない限り3アウトにならないからです。しかし、絶対に間違っていないという確信があれば、その剛速球の前に相手は諦めるしかないのかもしれません。その自信が過信だった場合は大けがになりますね。私の若気の至りは幸い成功しただけです。実はベテランになっても速球は投げるのですがw・・・  そのような経験が私の自己効力の源泉になっているのは間違いないでしょう。
 
変化球の話もしましょう。例えば、提案シナリオは変化球を多投したものです。他社の得意なフィールドで、速球を投げても打ち取ることができないと判断したら、めちゃくちゃ癖玉を投げます。ダメ元で、見たこともないようなユニークな提案をして選定メンバーを引き付けるのです。しかし、そんなことで勝てることはそうはありません。しかし、実は最終選定には必ずといっていいほど残ります。多くの人にとって変わり種が魅力に見えるのです。もしかしたら、その提案の方がいいかもしれないと迷うわけですね。もちろんそれを狙って提案しているわけですから、作戦通りです。
 
私は本来王道を行きたいし、それが望ましいと思っています。しかし、それが通用しないのだったら、ユニークな手を考える。それも、相手の想定を超えるような。
見積もりは求められていないのに、無視できない安価な見積書を提案書の中に入れてしまうとか、これからの時代はこう進めるべきだと、RFPて求められていない全く別の提案をしてしまうとか、様々です。失うものはないダメ元の状況であれば、創造力を絞り出せは、道は開かれるかもしれません。
仕事はそのように行動すれば楽しい状況になり、可能性が拡がります。正に、ゲーム感覚です。「仕事をゲーム感覚で行うなんて舐めるんじゃない」などと昔の先輩は言うかもしれません。そんなことはないですよ。仕事はゲームです。どういう手を打てば、相手はどう出てくるか? それを洞察して判断する。その繰り返しは、ゲームそのものです。
 
あるプロ雀士が書いたショートエッセーの話を前にしましたね。負ける理由のほとんどすべては「自滅」だと。ビジネスもそうです。私も実感としてそう思います。そうならないように、洞察して何手も先の状況を想像して手を打つのです。劣勢をひっくり返すのには奇策しかありませんし、勝てる試合であれば、ミスを絶対にしないように詰めていくのが鉄則でしょう。ビジネスと同じなのです。それを楽しみ、チャレンジできる人が大成し、そうでない人が目の前のチャンスを逃します。
機を見るに敏」という言葉がありますよね。「好都合な状況や時期を素早くつかんで的確に行動する」ことですが、不都合な状況でも打ち手はあるものなのです。「背水の陣」的馬鹿力もあるでしょうが、相手の油断につけこむ奇策もあるのです。
 
勝っても負けても楽しい。プロジェクトが成功しても失敗しても醍醐味はあったはずです。それが仕事だと思います。すべてのプロセスに学びはあるはずです。
 
それを許容する、もしくは楽しむのが上司だと思うのです。もちろん責任を取って。
「そうか、ダメだったか。ダメもとの奇策はそう簡単に通用しない。次は先手を取って王道で行こう!」と、部下を鼓舞するのが上司ですね。

夕暮れはやさしい