企業変革の3/4は失敗する

今さら言うまでもなく、企業は変わり続けなければ成長できないし、最悪生き残ることすらままなりません。常に市場は変化し続け、競合他社あるいは競合に名乗りを上げる破壊的イノベーターの方がよほど早くそれにフィットした戦略転換を成し遂げ、新しい市場を奪い取ってしまうかもしれないからです。そう、すべての企業は「企業変革」を成功させなければならないのです。

しかし、実際は企業変革の3/4は失敗に終わると言われています。IMD教授のN.アナンド氏はこう言います。「学者やコンサルタントのおかげで、企業変革のあり方に対する我々の理解は大きく改善されたにもかかわらず、変革の成功率はまだ悲惨なほど低い。」「失敗はやり方を間違えたからだとされることが多いため、企業は実行方法の改善に力を入れてきた。変革とはプロセスであり、その各ステージを注意深く管理し、必要な手段を講じなけらばならない、という考え方を各社は受け入れてきたのだ。」「だが、やり方のまずさは問題の一部に過ぎない。我々の分析によれば、『誤謬』も原因の一つである。誤った変革を目指すケースが多いのだ。複雑で動きの速い環境にいる場合は、特にそうである。そのような環境下では、競争力を維持するために何を変えるべきかという意思決定が性急になったり、見当違いになったりしかねない。」

特に問題が発生しやすいのは、新しいトップが功を急ぐあまり大胆な変革を推進し、それが失敗するケースだと思われます。北米では、新CEOが行った戦略転換により顧客の多くを失い、その後取締役会で解任されるというケースも相当あるように感じます。

このようなケースで考えられるのが、変革が目的になっていることです。もちろん新しいトップ(事業部長クラスも同じ)は、伸び悩んでいる事業を何とかしたいと思うし、澱んだ空気を変えたいとも思うでしょう。それは自然なことです。しかし、本質的な問い、即ちどんな価値を目指すべきかを深く考え抜く必要があります。マーケットを熟視し、更に将来を洞察する。テクノロジートレンドや将来の仮想敵は誰なのか等々を、先見性と洞察力を振り絞って考え抜くことです。それが短絡的な場合、「経営陣は脇道に逸れたり、無理をし過ぎたりする。あるいは、リーダーとしての自分たちの能力以上の変革を担おうとする。」この、上流とも言える熟考プロセス、あるいは探求プロセスをないがしろにしてはならないのです。

しかし、人は常に客観性を持ち続けられはしません。困っているし、焦っている場合はなおさらでしょう。同氏はこう言います。「取締役会や経営陣は、強引なCEOのビジョンに惑わされたり、ライバル会社の戦略的動向を真似しようとしたり、特定の探求目標に肩入れするコンサルタントの提言に乗せられたりすることがある。こうした状況で選ばれた探求目標は失敗に終わりやすい。なぜなら、徹底的に議論した結果でもなければ、全員がそう確信したわけでもないからだ。あるいは、中心となる重要課題にそれでは対応できないからである。」

そんなばかなと感じる方も多いでしょうね。名を馳せたトップがヘッドハントで別会社のCEOになり、変革の狼煙を上げて数年もしないうちに業績はがた落ちで解任されるケースなんて、我々日本人には想像しにくいシーンかもしれません。しかし、プロの雇われCEOは変革を成功させることが一種の目的なわけで、大胆な改革に手を染めるケースが多いのだろうと想像できます。もちろん、それが成功すれば一気に名声を博し、ビジネススクールケーススタディーに多用され(失敗してもされますが…)、その果てに本を出版するというシーンが目に浮かびます(笑)。もちろん、変革とは名ばかりで、社内の混乱は酷く、数字だけの厚化粧の上で名声を得たトップもいましたね。その後化粧は剥がれ実態が知れることになると、多くの人は驚きました。日本の企業ではこのようなドラマのような話はほとんど聞きませんね。内部情報が漏れないからでしょうね。あるいは、メディアや研究者が真実を掘らないからでしょう。

また、実は「徹底した議論」というのが実は難しいと思います。幹部が集まり本音で意見を感情を挟まずにぶつけあえる企業なんてほとんどないのではないかと想像します。CEOを頂点とする幹部たちが深い信頼関係を持ち合い、常に心を開き協働していますか? 確信をもってYESと言える人はとても少ないと想像します。CEOの重要なミッションはそのような協働関係を創り上げることです。真の心理的安全性を獲得することです。これは実は相当の時間と情熱の要るプロセスです。そして、絶対成し遂げるという強い意志が必要不可欠です。これを忘れてはなりません。このことは事業部長クラスでも同様です。

また、新しいトップがまずぶつかる壁が、現実を理解する難しさでしょう。自分の周りが前トップを支えたフォロワーで固められたままだとするならば、自己否定的客観性を持って問題を整理することは難しいでしょう。どっぷり浸かっている時間が長ければ長いほど、自己否定はできにくいものですし、自分を鏡で写すように客観的に見ることは難しいでしょう。トップは徹底的にハンズオンで現実を直視するしかありません。自分の目で見ること、現場の声に直接耳を傾けること、社外の人に話を聞くことです。

多くの企業で、多様なシーンでコンサルタントを活用しています。特に企業変革に悩む方たちは高額なコンサルフィーを払って、コンサルを雇います。課題に向き合うのが彼らの使命ですから、多様なフレームワークを駆使し、蓄積した知見を活用し課題解決の提案をします。しかし、忘れてはならないのは、コンサルにもバイアイスがあるのです。すべてのケースは千差万別です。それに、発注側も内部事情や事実、本質的な問題や、起業カルチャーなどの横たわる問題も含めてすべてコンサルに晒しているわけではないでしょう。即ち、コンサルにすべてのデータを渡しているわけではないのです。実はコンサルも渡されても困ると思っているかもしれません。それだけ、分析に工数が必要だからです。それよりは、自分の知見から導き出される仮説に乗った方が楽ですしね。もちろん、徹底的に分析しハンズオンで理解した挙句提案してくれるコンサルもいるでしょうが…。結局提案を受けても、それは5年前にやってみた戦略だ、なんていうがっかりした結果が出ただけだったなんて言う話もあるあるです。コンサルを活用するなと言っているわけではありません。自分で探求する努力もなく丸投げするような愚かなことは絶対にしないことです。

安易な道などありません。歩む道は険しく、そして走り抜くこともできません。遮眼帯を付けてダッシュしたら足を踏み外して崖に真っ逆さまになるだけです。時間と情熱を傾け、正しいフレームワークで進むことです。学ぶべきケーススタディーはたくさんあります。

先日観たM:I。最高のエンターテイメント。でも、荒唐無稽映画の典型とも言える。
変革は荒唐無稽では話になりませんよ。実現可能なものでなければ考えるだけ時間の無駄。
ちなみに、この映画とても面白かったですよ。
既視感のあるシーンが多く出てきます。でも、なぜ何度でも楽しめるんでしょうね(笑)