男性性と女性性の話は今まで何回か書きました。少々分かりにくいと感じますし、誤解している人も多いと感じます。そして、私自身の為にも自分の考えをまとめておきたいと思います。というのも、私は最近、新しいリーダーシップには女性性がとても重要になっているという確信があるからです。分かりにくいかもしれませんね。
そもそも男性性とか女性性とは何なのでしょうか。男性性、女性性とは、男らしいとか女らしいというのとはちょっと違います。行動パターンや肉体的役割とはあまり関係なく心理的・精神的な特徴を指します。昔は、男は外で肉体労働や生き残りをかけた戦の役目を担い、女は家で家事や育児を担うのが当然とされてきました。近代になっても、その価値観は続き、論理的に考え、リーダーシップによって組織を束ね、決断して競争に勝つのは男の役目とされてきました。女性は優しく、感情豊かで家族を包み込んできたわけです。しかし、時代は変わり、力任せに戦わなくても食料に困ることはなくなり、男性性の必要性は薄まったように感じます。しかし、ビジネスの世界では戦略性や執着心や強引さはいまだに必要だと感じている人も多く、男性優先の価値観は色濃く残っていると言っても過言ではないでしょう。しかし、今では男性でも女性性を持っていますし、女性でも男性性を持っているという理解が広がってきました。
例えば、現在でも男性性の高い国で女性が社会で活躍するために、もしくは男女平等を実現するためには、女性が男性に歩み寄る(男性化する)必要があると言われています。これでは、活躍する女性のことを「彼女は男っぽい」「男まさりだ」と揶揄する輩が減らないのも納得します。今となっては時代錯誤的ですよね。未だにいるとは思いますが・・・
働く空間を想像してみましょう。例えば、汗と涙と根性。長時間労働や仕事中毒を美化する人はいまだにいます。この文化や価値観は男性性の高い国の象徴です。
さて、こんな書き出しになってしまいましたが、男性性と女性性の特徴を書き出してみたいと思います。少々順不同ですが・・・
男性性の特徴
・与えたいと思う。
・教えたいと思う。(この行動は時に女性パートナーにウザいと感じさせますね(笑))
・受け取ってほしいと思う。(受け取られないと感じると自信を失う。これは男性の弱さの典型に感じます)
・大きな成果が欲しい。ゴールに到達したい。(プロセスを見ずに結果重視)
・一人の力で成し遂げることに意味を感じる。(存在証明をしているともいえる)
・従い、アドバイスを非難ととってしまう可能性が高い。(これも良くあるシーンです)
・一人で考えたい。(話を聞いてあげたい女性性。余計に一人になりたい男性性)
・論理的、行動的であり、また相手にそれを求める。
・分析的。
・支配的な価値観が強い。
・決断するのは自分の責任だと思う。(良くも悪くもリーダーシップの誤解)
・現状打開のためにもがく、あがく、必死になる。
・リスクを取る。(それもリーダーたる自分の責任だと思っている)
・支配的、高圧的、無謀、周りが見えない、エゴイスティックなどになるリスクが高い。(これもあるあるですね)
・業績主義が重要視され「強い者」「優秀な者」が支持される。(従い、できる人に盲目的に従うグループシンク【集団浅慮】が起きやすいと思われる)
女性性の特徴
・受け取りたい。
・共感したい。
・共感されたい。
・周囲の人々との調和を大切にする。
・解決策が欲しいわけじゃない。聞いてもらいたいだけ。((それに対してつい良かれと思ってアドバイスをしたがるのが男性性。それがウザい女性性。反応が悪いと否定されたと感じる男性性)
・毎日の小さな成功やプロセスが大切。(プロセスに目が行く。部下のプロセスを良く見ている)
・いつも気にかけてくれると感じると幸せ。年1の大きなプレゼントより、マメに小さなプレゼントが嬉しい。(実は部下もそのはずなのを知っている)
・感情にビビッドで直観力に優れる。(顔色を読むのが得意)
・流れの中にいることに柔軟に対処する。(悪あがきせず自然体で対処できる)
・創造のプロセスを楽しむ。プロセスの充実が好き。
・曖昧なものも受け止める。
・優柔不断、気を配りすぎて疲弊する、意志を示さず都合よく使われる、ノーと言えない。集中力がないなどのリスク。
・利他心が強く、福祉社会が理想。
・寛容性が高い。(正に母の心)
・成功は時の運であり、そこに執着するより大切なことがある。(柔軟性と通じる)
こんな感じです。いかがですか?
さて、私が数年前にいろいろ考えたきっかけはある論文です。
オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード博士によって、文化を研究しモデル化され、その論文は2020年時点で世界で19万回引用されています。彼が創業した会社「ホフステード・インサイツによって一部が「6次元モデル」として公開されています。その1つが「男性性/女性性」なのです。100を最も男性性の強いポイント、0を最も女性性の高いポイントとすると、日本は95で世界で一番男性性の高い国と評価されています。因みに、オランダが14で最も低く、その他の国では例えば、米国62、フランス43、2位のオーストリアが79です。日本が図抜けて男性性が強い国なのです。概して、女性性が高いのは北欧、西ヨーロッパ(フランス、スペイン、ポルトガル)、男性性が高いのは米、英、中、ドイツなどです。何となく分かりますよね。
ここで現代の企業環境を想像してみましょう。長時間労働は「ブラック」と毛嫌いされ、強いC&C(Command & Control)や放置は組織に対する忠誠心をどん底に落とし、予算に対するプレッシャーやマイクロマネジメント、根回し、失敗を許さない文化などには、若い人たちはついていけません。上司とのコミュニケーションは明らかに不足し、上司が何をやっているのかはまるで見えず(ノルマに追われ疲弊しているが、実際は付加価値を出しているようには感じない)、自分を見てくれているとも全く感じられず、職場では常に孤立を感じている。そんな環境や文化が色濃くはびこっていると言われています。だからこそ、1on1だ、ザッソウ(雑談・相談の区別のないコミュニケーション)だ、キャリアプランに沿った育成だ、権限委譲だ、会議の削減だ、ジョブ型だ・・・と変革が求められているわけです。
ここで考えなければならないのが、コミュニケーション(とりわけ傾聴)や共感、結果だけでなくプロセスを見てくれている、感情に寄り添ってくれる、失敗に寛容、皆のために手を差し伸べてくれる…というような上司のインクルーシブな価値観・行動がとても大事だと感じます。気付きますよね。これらはすべて女性性のなせる業なのです。
繰り返し言いますが、女性が良いと言っているわけではありません。男性も女性性を発揮することが大切なのです。現在の組織問題の解決に女性性は非常に有効な価値観なのです。女性は「女性性の時代が来たぁ~」と女性性自体が強みの一つなんだと自信を持つべきなのです。同時に、男性性むき出しの主に古いタイプの男性管理者は、女性性の大切さを理解し、自分の行動を変える努力をすべきなのです。自分ではなかなか気がつかないかもしれませんから、周りの友人や上司、更にはいつも「参ったな」と感じている部下の方々が、本人にフィードバックをしてあげると良いと思います。言われ弱いのも男性性の特長ですから、優しく言ってあげてくださいね(笑)。
実は、「コーチング」も女性性がとても重要だと思います。私の知っているコーチは皆さん大変インクルーシブで感心します。とても真似はできません。クライアントは自然と躊躇なく自己開示し、何でも相談できるのです。男性性むき出しのコーチにはできることではありません。
こう書くと女性性が重要で男性性は少ない方が良いと思われるかもしれません。それも間違っているように感じます。実は両方がバランスしていることが望ましいと言われています。それに、私が付け足すとするなら、TPOが何より重要なのです。使い分けられるのが理想です。一般的には、男性は女性性の出し所、女性は男性性の出し所にビビッドであることが大切だと感じます。