社風を決めるトップの言動

すべての会社に社風(企業カルチャー)が色濃くあるのではないでしょうか。近年コンプラ問題で業績を急落させている企業がたくさんありました。もちろん原因は様々です。しかし、そこの通底しているものは何かと想像することは、ビジネスを進める上でとても重要なことだと感じます。なぜならば、何十年も昔からそんな話は枚挙に遑がないからです。即ちどの企業でも起こり得ることだと考え、自組織に向き合う必要があると強く感じるのです。

少し、感じていることを書きますね。まず、強いトップが与える影響は実はリスクも大きい、ということです。特に、目先(今年度)の数字に対する現場への圧力が強烈なトップが、直下の部下たちに時には罵詈雑言ともいえるプレッシャーをかけ続けるパターン。実は、それは目先の業績に限らず、過去を否定しまくり、歴史を知ろうともせず部下の事業に対する愛情や執着を無視して、変えることを強制するなどというパターンも同様です。そのようなことを続けると、どうなるでしょう。部下のデモチ、諦観と同時に、必ず管理職の一部からYesマンが登場し、傲慢なトップに迎合し、彼が同様に部下に圧力をかけます。そして、それはどんどん伝染します。トップの指示に異論を唱えたり、結果が出せないと首が飛んでしまう、即ち言うことを聞いた方が得策なのですから、どんどん追随型のフォロワーばかりになります。本当はモチベーションが高く、トップの指示が間違っていると感じている人たちは、勝手にしろと言わんばかりの手抜きの仕事ぶりになり、そのうち優秀な人から転職していってしまいます。

そういうトップの特長の一つが外面が良いことです。これは実に困ったことです。業績に対する執着が強くビジョナリーで改革派を気取っているわけで、対外的によそ行きの顔をしている時はとてもスマートに見えます。そして、末端の社員たちにもそうです。とてもオープンで聴く耳のある素敵なトップに見えたりします。しかし、現実的には直下の部下には先ほどのようにめちゃくちゃ厳しくパワハラ一歩手前だったりします。残念ながら一般社員からはその行状は見えませんメディアからも同様に見えないわけですね。

先ほどのように、それは確実に伝染し、耳の痛い情報は決して上がりません。以前にも書きましたが、今のプーチンと同様です。失敗は決して許されず、ネガティブな状況はどんどん隠蔽されます。しかし、それは決して隠し切れません。お天道様は知っているのです。しかし、公になったときにはもう取り返しがつかなくなっているわけです。

 

社風はそのように時間と共にじわじわと作り上げられます。最も大切なことは、トップの自覚です。トップは現場に寄り添うこと。事実を傾聴し、問題の本質を理解しようと努力を続けること。上意下達、C&C(Command and Control)はいざという時だけに止めること。耳の痛いことを言ってくれる部下を重用すること。権限委譲を進めること。利他心コラボレーションを優先すること。外交官であること。女性性が高いこと。決して癇癪を出さないこと。保身など考えないこと。などが社風に影響するのではないだろうか。

 

トップがそうではなく傲慢な時に、あなたは首をかけて直言できますか? 誰かがその役目を果たさないと会社は戻ることのできない一方通行の下り坂を進むかもしれないのです。一歩間違えると滑落します。

もし、あなたが同様の気持ちであるなら、まずは同じ危機感を持っている仲間を探すことです。必ず少なからずいるはずですから、探しましょう。一人ではできなくても大勢ならできますよ。

 

このような状況に陥りがちな企業のもう一つの特長は、業績が低迷しがちな企業であることです。トップは市場からの批判を受けやすく、焦り、できないのは部下の怠慢のせいだと思いがちなのです。ストレッチ目標を掲げ、それが未達で終わることが続き、今期は絶対に達成しなければならないと固執します。HBRに2017年に載ったシムB.シトキン教授たちの論文にはこうある。「業績が低迷している企業では(中略)、社員はストレッチ目標を脅威と見なし、社外から持ってきたその場しのぎの解決策に飛びつき、不安や警戒心を抱いたりしやすい。新しいプロジェクトを立ち上げても、脈絡がなく、結果的に自滅するような形を取りがちだ。」これは以前にも書いた「GE帝国盛衰記」のプロセスと酷似しています。また、「『業績不振なのに、野心あふれる』組織は、業績が期待外れで経営資源が限られているせいで、ストレッチ目標を追い求めるために必要なケイパビリティ―や勢い、再起能力が不足している。」さらに、「自社の経営資源に余裕がないことを顧みず、最近の失敗を挽回する手段としてストレッチ目標を追求すると(すなわち『当たって砕けろ』)大変なことになる。つぎはぎだらけの装備で『空高く飛んで太陽に近づけば』ギリシャ神話のイカロスのように命運尽きる可能性が高いため、そうした衝動に負けてはならない。」その通りですよね。皆が分かっていても、トップは高い目標を掲げ、現場に強烈な圧力をかけ続ける。よくある景色です。

 

トップは何があろうが自分で責任を負わなければなりません。誰のせいにもできません。現実に向き合い冷静に解決策を実行するのです。平時に風通しの良い心理的安全性の高い風土を作り続ける努力をしなければなりません。謙虚で、オープン傾聴を宗とするコミュニケーションを得意としなければなりません。目標設定は結構ですが、実現可能な数字でなければ意味はありません。一方でその実現に見合う経営資源を与えているのかを客観的に判断しなければなりません。歴史を学び、感情に寄り添い、その上でチャレンジ精神をかき立てるナラティブを語らなければなりません。怒りを伴った圧力は最低です。恐怖からは何も生まれません。クリエイティビティ―は恐怖からは生まれないのです。私たちは鞭打たれれば速く走る馬ではないのですから。

登るときよりも下るときの方が難しい
@アルプス