幹部の悩みを整理してみる

エクゼクティブコーチングやコンサルティングを始めて3年半。多くの企業幹部・管理職と話をしてきました。クライアントの悩みを私なりに総括してみたい。

圧倒的に多いテーマは二つ。まず第一にHR関係。とはいえ広い。人財育成、組織活性化、エンゲージメント向上など、人と組織に関係するものだ。もう一つが、中期的な成長戦略の立案と実行だ。もちろん、二つは関係していますね。

それぞれは広く深い。前者であれば、採用やリテンションもあれば、1on1の有効性向上もあるし、風通しを良くするとか心理的安全性を上げるとかのカルチャーに関係しているもの、更に評価やローテーションなどもある。後者だと、中期経営計画の策定方法や、実行に移すプロセス、末端までのオーナーシップ浸透、センスメイクプロセス、ステークホルダーとのコミュニケーションM&Aやカーブアウトなども含む戦略思考のレベルアップなどなど多岐にわたります。

いずれにしても、まるっと言うと人と戦略にフォーカスしていることがよく分かります。考えてみれば当然なことかもしれません。

 

言えることは、近年特にHRに係わる課題が表面化してきたことです。2017年に発表されたギャラップ社の「熱意あふれる社員の比率」が、日本が最低レベルだった記事は、あまりにもショッキングで、その後もたくさんのメディアに引用され、ほとんどの日本の企業人の知れることになり、そこからエンゲージメントとか、ウェルビーイングだとかがいかに重要かの議論が沸騰してきたわけです。それは私自身もヒシヒシと感じるところで、私の学習の対象もHRに重みを置いてきました。2年以上前に、ある上場会社の依頼を受けて人事のコンサルティングを1年余り行いました。まだ、何も手を打っていなかった同社の改革をサポートしたのです。毎月議論し、できることから即スタートしました。僕は元々HRのプロではありません。しかし、40有余年のサラリーマン人生の中でコンサバなHR施策が組織カルチャーに及ぼす悪影響や、管理者や幹部の知識や動機の低さが企業の変革の足を引っ張っていることを、忸怩たる思いで見続けてきました。そして、全社のHRに関係するタスクフォースに入ったり、人事のサポートをしたり、多様な場で話をしたりするプロセスで、気付き、学び、情熱を深め、意見を言ってきたつもりです。私自身の本業(担務)とは関係ないのですが・・・。しかし、重要なミッションだと自覚していたから率先して汗をかいてきました。そんな経験は実は今の仕事に強く関わっています。その会社においても、特に若い人事担当者の賛同を得て多様な施策を展開してもらいました。やはり幹部のコンサバさは障害になりました。人事担当者も苦労していました。その時私は、現実を直視できるか、直接若い社員の生の声を聴いているのか、即ちどれくらい幹部がオープンなのかなどが、キーポイントだと痛感しました。

結局は、HRにまつわるトレンドが理解された現在においても、いや、理解されたからこそ先ほど書いたように、優秀な幹部の悩みの多くはHRに絡むことであり、私が今でも注目している対象なのです。結局、僕はここ数年あまり、多くのHRにまつわる講演を聴き、Web上で知見を漁り、学び、考えてきました。このブログの中でもHRに関することが非常に多いことは、読者の皆さんもお気づきのことと思います。今は、世の中に上質な情報はたくさんあります。手を伸ばせば手に入る。しかし、学んでいない人があまりに多いと感じます。それが残念でなりません。

 

そして、戦略面。企業で働いた期間、嫌というほど戦略を考え続け、方向修正や新しい取り組みを行ってきました。もちろん、基本的なフレームワークなどは学んだつもりだったが、果たしてそれは体系化され身についていたのかは、今となってはダメだしせざるを得ません。付け焼刃だったということです。ということで、去年の暮れからグロービス学び放題」を契約し、学び直しています。改めて整理をされたインプットを得ることによって、今まで私がコーチングしてきた内容とリンクし、整理された形で形式知しています。言い換えると、私の経験と経営学がリンクし再生可能な形で私の脳の引き出しに格納されたわけです。私は、企業を卒業後にそうしましたが、現役の幹部・管理職の方たちも継続して学び続けることを強くお勧めします。経験と(体系化された)知識は掛け算だと思います。両方あれば広さも深みも何倍にもなるということですね。

 

話しは戻りますが、それら2大テーマの次は何だと思いますか? これも非常に多い悩みです。「忙し過ぎる」という問題。思わず笑ってしまうかもしれませんね。なぜ問題なのか? 忙しいことが問題なわけではありません。忙しくてやるべきことが何なのかが分からなくなり、日常の足元のイシューに追われているということが問題なのです。分かります? なんで忙しいか。会議、資料作成、レビュー、決裁、予算、トラブル対応などです。更に悪いことにコロナ禍のせいもあり、Outlookはフルに公開され、部下が勝手にスケジュールを入れてしまうという意思のない行動に甘んじています。結局、考えたり学んだりするのは夜と週末。それもやらざるを得ない納期に追われた足元のことばかり。即ち埋没しているのです。それでは、幹部としてのミッションが果たされるわけはないという問題以外にも、あんな幹部にはなりたくないという若い部下たちのロールモデルになっているという問題にもなっているのです。これに気付いている人は残念ながらほとんどいません。前にも書きましたが、人には「自己保存の法則」があります。「忙しい自分が素敵!(成果が出ているのかどうかは無関係)「しょうがないじゃないか」という気持ちが絶対にあるのです。この事実に気付くべきです。

 

企業の組織の中で昇格していけばいくほど何をやらなければならないのでしょうか。そうです、「ハイレベルな仕事」をしなければならないのです。さて問題です。「ハイレベルって何ですか?」それが分からない人に時間管理はできません。そんな管理者・幹部ばかりな会社は成長するわけはありませんし、部下は成長するわけはありません。それを真剣に考えてほしいものです。

何に時間と情熱と能力とスキルを投入すべきなのか。それがめちゃくちゃな人に組織を任せてはなりません。それらは自分の意志で意図的に管理しなければならないのです。

大切なのは、ビジョンや理念などの浸透と権限委譲とサーバントリーダーシップと、ハイレベルとな何なのか(経営の価値観)を明確にして優先順位をはっきりさせることです。そうすると、現場からどんどん離れてしまう幹部がいますが、それは大きな間違いです。顧客やマーケットから離れた幹部に事業の操縦はできませんハンズオンと権限委譲は絶妙なバランスを取らなければならないのです。それには意志とセンスが不可欠です。鈍感な人にはできません。できない人を昇格させてはならないのです。部下が不幸です。

夜の銀座線@浅草
おろしたてのレトロな車両。「哀愁」はマーケティング的には「有り」だが、
企業の施策には不向きだね。移り変わる環境にアラインできるかがすべて。