女性活躍の課題とメンバーシップ型雇用からの脱却

安倍政権の看板政策の一つ「女性活躍」の旗の一つが「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%程度にする」だった。14年のダボス会議でも安倍首相が同じ内容で演説するなど、いわば国際公約ともいえるポジションだった。それがあっさり30年までの目標と格下げされてしまったのはご存じの通り。それに抗うように、日経新聞主催の「ジェンダーギャップ会議」が行われるなど、再びスポットライトが当てれれている。20年前から女性活躍は重要だと言っていながら、足元では企業はほとんど変わっていない、というのが現実だろう。このままではこの先何も変わらないまま時が過ぎてしまいそうだ。最近私もクライアントとこの件を話すことが増えた。D&Iの典型的課題にちゃんと向き合うことの重要性を分かってほしいのだ。

“女性活躍”のことを真剣に考えると、いろいろな壁にぶつかる。例えば、いかに女性の背中を押そうが、当の女性からすると「活躍してほしいと言われても、家事も育児も頑張り、その上仕事で活躍することを期待されても無理だ」と感じる人がほとんどだろう。いかに職場の理解があろうがだ。

即ち、場合によっては、職場で背中を押されても、夫の顔が浮かんでしまい、有難迷惑と感じてしまう人すらいるのではなかろうか。その壁を乗り越えるためには、一つは夫の理解が必要不可欠だということだ。能力は均等で、機会も均等、社会に還元できる価値も均等なわけで、家事や育児も均等でなければ、そのパフォーマンスは発揮されることは難しく宝の持ち腐れになる。その「均等」という価値観を腹の底から理解していない夫が多いのではないだろうか。“どっちが稼ぐ”などという価値観を持ち出して解決を図ろうとする夫もいる。妻からしたら「そういうことじゃないんだよ」と叫びたくもなろう。価値はお金で換算できるものだけじゃない。古い価値観の男性は、どこかで自分を支えてくれる妻、自分の価値観に合わせて動く妻を求めているのだろう。そんな夫が令和の時代にも残っていると感じる。女性が社会のおいてもっと活躍するためには、夫との信頼関係やコラボレーションの価値観が共有されていなければならない。何も夫に「ごはん遅くなってごめんね」とか「明日の朝の保育園見送りを代わってくれませんか」など、謝ったり機嫌をとったりするのはどう考えてもおかしい。そんな家庭環境で女性活躍を語ること自体、社会の機能不全を感じるのだ。企業サイドがいろいろな取組をしても片手落ちなことは間違いあるまい。そう、夫の教育が必要なのだ。

一方企業サイドも、いまだに古い価値観がはびこっている。「結局無理がきくのは男性だ。転勤や残業、急な休日出勤は女性には無理だ…」というような価値観。そのベースにあるのが上記のアンバランスだが、女性サイドが「我が家は大丈夫です。夫と分担してますから」と言おうが、会社サイドが余計な配慮をしてしまう、良かれと思って。間違った配慮でしかない。また、そもそも無理がきく云々の価値観がずれている。自分の都合やライフスタイルを捨てさせてまで滅私奉公する人材を求めること自体が、間違っている。そんな価値観がおかしいともう気付きましょう。働き方改革ワークライフバランスなんて言っちゃって、その本質を理解しましょう。

同時に、ステレオタイプにワーククライフバランス云々を押し付けるのもおかしい。そもそも企業は競争の中で生き残りと成長を賭けている。ここで頑張らなきゃいつ頑張るのだ、というタイミングもある。そして、仕事がライフワークだと思う社員もいる。それを間違っていると断ずることも過ちだ。多様な価値観を理解しなければならない。いろいろな価値観、経験、視座などが交じり合うことが重要なのだ。金太郎飴のように一色に染めようとする古い価値観は、企業や社会を澱ませる。居心地が悪いと感じる人を増やすだけだ。

“ジョブ型雇用”、“メンバーシップ型雇用”の議論が広まっているが、上記のような古い多様性を認めない価値観は、明らかに旧来のメンバーシップ型雇用の産物だと感じる。スキルで給与を決めず、会社都合で異動や転勤を決めることに耐えられるかどうかが重要な価値観だからだ。

かといって、ジョブ型雇用を安易に称賛するつもりはない。多くの企業でその志向が強まってはいるものの、中途半端な運用をしても混乱するだけで、早晩挫折する気がしてならない。ジョブを詳細に定義し、いちいち契約して給与も決め、会社都合で異動することはなく、必要なポジションは丁寧にジョブを定義して応募して採用し、見つかるまで採用活動を続けるようなことを通年やり続けなければならず、よっぽどの覚悟と準備と社員の理解浸透が整わないと、不公平感がはびこり、職場心理が荒れるだろうと推察される。そもそも多くのポジションはいい加減なジョブ定義しか書けないと推察する。

しかし、この議論は今後の企業と社員の関係を大きく進歩させる重要な変革起点になる。特定の職種から始めるとか特定の階層以上から始めるとか、丁寧な準備と共に段階的な浸透を図るなどの施策が必要不可欠だろう。

女性活躍の観点から横道に逸れたように感じるかもしれない。しかし、メンバーシップ型雇用の価値観からの脱却が、女性活躍の浸透を助けるのは間違いないと思うのだ。

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均等が一番