会社は誰のものか? SBGを見て考える

ソフトバンク・グループSBGの孫社長がSBGを手放すことになりかねない可能性があると言われ始めて1っか月以上たっただろうか。本人によれば2兆数千億の資産を有しているらしい(SBGの約22%の株を持っている)ので、そんな心配は無用だと言っているとのことだが…

ことの発端は決算の記者会見。彼は個人として5,000億円の融資を受けていると語ったのだ。問題はその担保。なんと彼が有するSBGの株のうち約70%を差し出しているらしい。もちろん株価が高ければ何の問題もない。ところが、その株価が下がれば、彼は担保の追加をしなければならない。できなければ株の売却か別にキャッシュを用意しなければならなくなる。最近のSBG株の暴落でそれが架空の話しではなくなる可能性が出てきたらしい。金融機関もコロナ禍以降業績が悪化し、おおらかに対応できる余裕がなくなっているとしたら、孫氏に対する圧力も強まるはずだ。

SBGはもはやファンドだ。Weworkなど投資先の株が暴落し、2020年1~3月期の連結決算(国際会計基準)は最終損益が1兆4381億円の赤字(前年同期は1271億円の赤字)だった。それを埋めるために、上場したばかりのソフトバンクの株を大量売却し現金化したうえで、SBG自社株を2兆円も買いますと発表し、株価の立て直しに汲々しているとも見える。

もちろんファンドのポートフォリオである各社の価値が上がってくれば当座の問題はない。投資家に利益を還元し、SBGの株価もまた上がってくるだろう。マクロ的にみればそういうベクトルだろう。ただ、人類が経験したことにないコロナ禍により、産業セクターの浮沈は想像を超えてダイナミックに動く。Weworkは創業者の暴走に始まり、コロナ禍によりシェアオフィスの価値は谷底に落ち、またウーバーも同様。

マーケットが成長しているときは、借金しても問題は全くない。金が金を生むサイクルが回る。ファンドはそういうマーケットや企業を探す。特にSBGの場合は成功がほぼ間違いないミドルステージからレイターステージ(後述)の企業、即ち更なる大胆な拡大のために巨額の資金を必要としている企業に、大枚を投じて成長してきた。もちろんその目の付け所が素晴らしいが、その金額の大きさが梃子たるゆえんだ。

SBGはファンドであり実業でもある。G各社の社員はどう感じるのだろうか。実業でいかに稼ごうが、ちょっと風向きが変わって縁もゆかりもないポートフォリオ株価が上下した方がよっぽど業績を左右する現実。

ファンドとはそんなもんだ、と言ってしまえばそれまで。しかし、SBGは違う。事業会社でもあるのだ。孫さんはそう思っていないようだが・・・

 

 もし、孫氏をはじめとする経営陣がMBOManagement Buyout「経営陣による買収」)するとすると、10兆円ほどの資金が必要だ。もちろん個人の所有資産でそれが賄えられるわけはなく、金融機関など第三者が軍資金を提供することになる。第三者に株を持たせたら何のためのMBOか分からなくなるともいえるが、非上場にすることだけはできる。孫さん自身は、営業利益ばかりに注目しないでほしい。投資会社なんだから株主価値に注目すべきで、それは落ちていないんだからガタガタ言うな、とでも言いたいのでしょうね。本音は非上場にしたいのかも。

話は戻して、一年を見ると、ソフトバンク・グループSBGは2020.3月期で営業利益が1兆3,000億円の赤字、当期純利益は9,600億円の純損失だった。

SBGはアリババの株を昨年6月にも一部を売却し1兆2,000億円の売却益を得ている。その際にアリババの持ち株比率は26%に下がっている。現在アリババの時価総額は60兆円ほどなので、今でも15兆円以上のアリババ株を持っていることになる。SBGで約6兆8,000億円の借金と5兆円の社債があると言われているが、アリババ株が暴落しない限りガタガタ言われる筋合いはないと、孫氏も思っているのだろう。

ところが現下の状況の中でSBGは銀行への返済と自社株買いに充てるために、4兆5,000億円の資産売却を予定している。そのうちアリババ株が1兆5,000億円程度とのことだ。

このような状況になったのは、ソフトバンク・ビジョン・ファンドSVFの投資価値の暴落だ。SVFはご存じの通りサウジアラビアなど投資家から8兆円弱の投資を受けている。それ以外にもSBGはメガバンクを中心とした銀行から7兆円弱の融資を受け、40万人の個人投資家社債を売り、その資金を90社弱のベンチャーに投資し、ソフトバンクやZDHなどに4兆円以上投資している。また、スプリントやARMなどの海外企業に6兆円弱投資している。得た資金は返済や償還、利払いをしなければならないのは言うまでもない。更に投資先の株主価値が下がれば会計上は損失に計上しなければならない。今回の決算ではSVFで1兆9,000億の損失、WeWork、Uber、OYOなどの企業価値がコロナ禍で暴落したことが大きかった。

ユニコーンが成長している間は投資は典型的なレバレッジになる。投資したお金の価値がどんどん上がるわけだ。既に成長が約束された(もちろんそんなことはなく、社会トレンドやテクノロジートレンドなどを鑑み、既にある程度成功の道を進んでいることが間違いなく、資金を投入すれば一気にスケールできるエキスパンジョン・ステージから、レイター・ステージにあること)状況に莫大な資金を投資するのだ。SBGの場合はほとんどがそのケースであり、発展初期段階(シード・ステージやアーリー・ステージ)の投資はほぼない。成長しているうちは間違いなくレバレッジ。それが投資家のビジネスモデル。

さて、このような投資家としての企業は、いったい誰のものなのだろうか? 私には想像がつかない。そこに集う投資家達はどうなのだろう。恐らく自分の会社とは思わないだろう。私たち庶民が証券会社に運用を一任するファンドラップをしたからと言って、証券会社にオーナーシップは全く感じない。株主はどうなのだろう。実事業を事実上持たない投資会社に対してオーナーシップを感じるのだろうか。私が株主であったとしても感じるとは思えない。社員も同様で、実業を持たないと社会に貢献しているという実感はほぼないのではないだろうか。批判しているわけでは全くない。お金を回すことによって社会変革を加速するという使命はわかるし、尊敬もする。しかし、社会の公器としての企業に係るステークホルダーにとって、自分の存在価値と結び付けられない実感のなさがなんとも空虚、即ち一体感を全く感じないのだ。結局は孫さん一人の会社なんだろうな、なんて感じる。

SBGとは無関係な僕がSBGを取り上げたのは、このようなセンセーショナルな動きを見ると、僕たちサラリーマン(僕は既にそうではないが)が所属する企業とどういう関係を築けるのかが、最近僕の中で大きなテーマになっているからだ。

僕たちは、自分⇒会社⇒社会とのつながりを強く感じることを、本能的に求めているのではないかと思っているからだ。続きは別の機会に(^^♪

 

㊟数字や状況は時々刻々と変わっています。少し前の情報をベースに書いているところもありますので、今現在は数字は微妙に変わっている可能性があります。ご承知おきを。

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旬を楽しむ。熟れごろのジャストタイミングを計るのが難しい。人生もそうですよ。