つづきを書こう。自分と向き合うこと

前回SBGを取り上げて、会社は誰のものか云々と書きました。その続きを今日は書きますね。

私は以前にある企業トップに、その企業の変革に関して提案をしたことがあります。起業した以降の話です。詳細は書きませんが、トップが社員にどう向き合うかの観点です。トップは強いリーダーシップを求められます。特に戦時のおけるカオスの中では必要不可欠だと思います。しかし、平時はどうでしょう。平時においても、この人類史上最も変化の激しい時代においては、日常が変革の毎日である必要があるものの、それはトップダウンで行われるべきではなく、社内のあちこちで内発的に行われるべきものです。そのきっかけはトップによってなされるべきなのはその通りでも、箸の上げ下ろしを指示してはなりません。そうし続ければ、永遠に社員は指示待ちになり創造的な職場はできませんね。

トップに必要なのは、ハンズオンです。顧客、顧客フロントにいる社員、製造現場、エンジニア、サプライチェーンを担う人々、協力会社や販売店、事業パートナーなどなどとコンタクトを取り続けることです。そんなのは当たり前ではないかと皆さんは仰るでしょうが、実はできていない企業幹部、経営陣がほとんどだと感じています。大体、トップに上がってくる情報はほぼねじ曲がっています。特にトップが強い圧力を振りまいている人であればあるほど、各レイヤーの人々はその上のレイヤーの上司の強い指示や忖度にコントロールされます。上司はどのような報告を欲しがっているかを考えるのです。それが何回層にも行われると、もはや事実は覆い隠され本質を見失った議論や指示が行われかねない状況に至ります。各レイヤーとも「見たくないものは見えない」「都合の良いものしか目に入らない」人たちの集合体ですから、そうなって当然です。彼らが悪いわけではありません。そうさせているのは積み重なった上司の遮眼帯で去勢された本質を見失った固定観念です。

トップは事実に触れるためにハンズオンで降りていくしかないのです。フランクな話を聞いたり、都合の悪い話を聞いたり、自虐的な落胆するような話に耳を傾けるしかないのです。もちろん、そのような話を忌憚なく話してくれる人たちに深い感謝の念を抱きながらです。

さて、企業の経営陣はそのような機会を当たり前のように作っているでしょうか。社内で会議ばかりしているのではないですか? 在宅だからできないって? 嘘コケ。そういう問題ではありませんね。自ら行動しなくてはならないのですよ。部下の誰がそういう機会を作ってくれるというのですか? 現場を見せるとろくなことが起きないから誰もそういう機会を作りませんよ。そんなにひどいのか!と怒られると思っているのですから。自ら機会を作りフランクにコンタクトしなければならないのです。

そんなことを考えていると、さて、企業トップは社員の代表たる組合とちゃんと向き合っているのかと疑問が湧きますね。組合サイドも、トップに忖度したような向き合い方しかしていないとするなら、そもそも存在価値すらない組合ということになりますね。経営陣が組合とちゃんと向き合うということは、必要不可欠なハンズオンの一つです。忌憚のない、自虐的な事実を包み隠さず話し、議論する場でなければなりません。経営幹部は組合との議論の都度、「びっくり仰天」「目から鱗」というような経験をしなければ意味がないのですよ。幹部の人たちはそんな経験をしたことはないでしょうね。

そこで考えなければならないのは、組合員の姿勢やマインドセットです。以前から感じていたことですが、社員の多くは自分の会社のことをよく理解していません。就職活動の時はよく勉強して、ステレオタイプな「御社の・・・というところを尊敬しています」なんてことを言っていたはずなのに、多くの社員は入社後自分の会社のことに興味を失ったようなマインドセットになりますね。これはCMOだった時に感じた大きな課題でした。それが、例えば「インナーブランディング」に力を入れるなどという施策につながったわけですが・・・

大切なことは「オーナーシップ」だと思います。皆さんはご存じかどうかわかりませんが、社員のオーナーシップといえば有名なのがシーメンスですね。グローバル・エクセレント企業で、製造業からデジタル、ソフトウェア企業へとシフトを続ける、多くのレガシー企業の見本となるべき企業ですね。シーメンスが大切にしているのが「オーナーシップカルチャー」です。社員全員一人一人が会社を背負っていると自覚して、業務に邁進する文化のことです。その文化の根底にいろいろな行動が隠れています。例えば、幹部はマーケットやテクノロジーの変化などいわゆる「メガトレンド」を理解し、それを社員に発信します。社員はそれを理解し、中長期的視座に立った戦略を考えるのは自分だと悟ります。ポイントは幹部は社員を腹落ちさせられるのかです。分析し洞察し危機感と機会を納得させるのです。また、会社は社員の成長のために、個々にいろいろな仕事をアサインします。同時に社員は自分のキャリアプラン、即ちどう成長したいのかを考えるように指導されます。そのように会社と社員のwinwinの関係は、次に権限委譲につながります。シーメンス将来は自分が決めるのです。幹部でなくとも、社員は「自分の会社」とも言うべき「オーナーシップ」感覚を自然と身に着けます。これは、言い換えれば「当事者意識」「責任感」ですね。更に社員の半数以上が自分の会社の株を所有しているそうです。そういうところにも表れるんですね。

組合員をはじめとする社員が、そのようなマインドセットで会社と向き合ったら、素晴らしいと思いませんか。そんなことが日本において可能なのでしょうか。以前にも書きましたが、ギャラップ社が全世界1300万人に調査した結果では、日本企業はエンゲージメントレベルの高い「熱意があふれる社員」が6%で139か国132位だったのです。なんと「やる気のない社員」が70%もいたのです。これはどういう意味なのでしょうか。もちろん一言でいえば世界で最もエンゲージメントレベルが低い国、となるわけですが、この状況で先ほど書いた「オーナーシップカルチャー」があるわけがない、と気付くはずです。なぜなのでしょうね。自分と会社は別人格、関係ない、給与のために働いているだけ、小うるさい上司の言うことを聞いていれば給料がもらえる、楽しくもないし働き甲斐もない・・・というような関係なのでしょうか。自分と上司や同僚、同期などと心はつながっていないのでしょうね。信頼関係もなければ、将来の夢を共有したこともないのでしょうね。

企業は人です。最高最大の財産は人材であり、社員が持てる能力と情熱を発揮して当事者意識と責任感を持って、価値を社会に届けるのです。それが喜びであり、一人一人の存在価値です。トップも経営陣もマネジメント層も組合員も組合も、そんな当たり前のことを腹落ちさせ、今までの自分とちゃんと向き合いましょう。それがすべてのスタートだと思いませんか?

 

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ひとりひとりの個性は、オーナーシップ・カルチャーでつながるんだろうな。