心にパーパス、外にもパーパス

以下の記事は私が社内ブログに2019.04.22にアップしたものを改変したものです。

 

今まで自分や自組織の“存在意義”、“存在価値”あるいは“ミッション” 即ち “WHY”を明確にすることが重要なことだと何回か書きました。なぜそうなってきたのか、更に新しい捉え方の潮流について少し書きたいと思います。HBR3月号「組織の『存在価値』をデザインする」(佐宗邦威氏)という論文が実に腹落ちしました。引用しながら進めたい。

 

■WHYの発信が重要性を増す流れ

佐宗氏はミレニアル世代の台頭と機関投資家の意識の変化が“WHY”を発信することの重要性を後押ししていると指摘します。「ミレニアル世代は生まれたときからインターネットと接しており、GAFAのように社会変革を実現してきた21世紀型組織こそ身近な存在である。彼らは金銭的なインセンティブ以上に、その組織で何を達成出来るかを重視する。そのため組織の仕組みで縛り付けるのではなく、存在意義に共鳴してもらうことで呼び込む考え方が主軸になる。2025年にはミレニアル世代が世界の労働人口の75%を占めるといわれており、人材として、消費者として支援してもらうためにも、自分達の“WHY”を訴えかけることが欠かせない。また、2016年の調査で、ESG投資の割合が全体の25%を越えたという。国連が掲げたSDGsも注目を浴びている。それらの実現を目指す企業は結果的に、長期投資を重視する機関投資家から投資を受けやすい環境が整ってきた。株主利益の最大化という単一指標で計られていた投資の基準が、その企業がいかなる社会的意義を果たすのかへとシフトしつつある。」

そう。これからの企業は社会の中でどのような価値を発揮できるのかが重要なポイントになるのですね。その価値が大きければ大きいほど人材もお金も集まるのです。もちろんボランティア的貢献を指しているわけではありません。価値が高いということは、喜んで相対的に高額の取引ができ企業の利益が積み上がり、それを更に新しい価値作り(イノベーション)のための投資に回し、社会に還元していく。その循環が幸せな社会を創っていくということなのです。

 

■エッジを立たせる

我々のICT業界は変化が激しく競争も過激です。新しいアイデアは雨後の筍のようにどんどん出てきては消えていく。長く継続してきた事業の一部は衰退期を迎え、売上も利益も漸減していく。そもそもなぜそんな事業をやっているんだっけ?と首をかしげる事業も残っているはずだ。

視座を上げろ、視野を広げろと言われれば言われるほど、何をして良いか分からなくなる。混沌に埋もれてしまう。だからといって時間とコストをかけ続け、中途半端なまま検討途中の状態を放っておいたあげく、他社がよりイノベーティブな同類の事業をスタートさせてしまう。社内には死屍累々・・・。などということをいかに避けるかがとても重要です。

そこで“(かがみ)”として用意しておかなければならないのが“WHY” 即ち “ミッション” “存在価値”だ。皆さんあるいは皆さんのセクションは明確な“ミッション”を持っていますか? 何の為に存在しているのかを自信を持って語れますか? 私たちは何度も何度も自問してその答えを決めなければなりません。そのときに重要なのはエッジを立てること。即ち、何を言いたいのか分からないとか、他の会社も同じようなことを言っているとか、当たり前すぎて心に響かないなどというものではダメ。グサッと心に刺さる明確な“WHY”を用意して欲しいのです。それが我々に行動の“鑑”になる。何をやるにしてもその“鑑”に従うわけだ。だから、これをやる、これはやらないというように。

 

■組織に横たわるもの

以前からいろいろな研修の場で紹介している話し。職場にはいろいろなものが横たわっています。管理職はそれを制御しなければならないし、職場に課題があればその内の何が問題の原因になっているかを分析し、対策を打たなければなりません。それは8つのレイヤーで構成されています。少し説明します。いろいろな方がいろいろな表現で同様のことを語っていると思います。これは、それらを参考にして私なりに腹落ちするように作り直したものです。一番土台になるレイヤーから順番に並べてみましょう。

Culture(組織文化)、Mind(意識、気質)、Ethic(倫理)、Passion(情熱)、Philosophy(企業理念) そしてその上に乗るのが、

Mission(何の為に、存在意義・価値) これが“WHY”であり求心力を高める。そして

Vision(向かうべき方向、将来やるべきこと・立ち位置・理想の姿) これにより人を動かす。

Shared Values(共有する価値観) これにより望むべき組織文化を創る。①~④までの上に実体が乗らないと砂上の楼閣になる。

Organization(組織)、Management(経営者・層) ベースの上に乗っかる実体。

Leadership(先導力)、Trust(信頼)、Respect(尊敬) 実体が具備しなければならないもの。

Innovation(価値創造)、Strategies(戦略) そして、具体的に何をやるのか。

Operational Excellence(業務品質、プロセス品質) やると言ってもオペレーションがついていかないと成果が出ない。

例えば、プランはこぎれいに作るけれど完遂したことがないという問題があるとすれば、その根本的な問題は、②Missionが不明確なので責任感が持てないのではないだろうか? さらに幹部の⑥LeadershipやRespectがないからだとか・・・ そこを解決せずにプランの見直しばかりにエネルギーを使っても無駄なのです。

組織が成果を出せないとき、一人一人の不満やストレスが鬱積しているとき、気持ちが1つにならないとき、生産性が一向に上がらないとき・・・ これら8つのレイヤーのどこかに問題の本質が隠れています。それを突き詰めないと解決は難しいと思ってください。管理者が自虐的に自問しないとダメですよ。きれい事ではなかなか解決しません。そのときは表層に出ていることに安易に帰着させてはなりません。例えば、「ルールが悪い」というように。だったら変えればよいのですが、なぜそんなルールを放っておいたのか?とか、なぜ変えるのに1年も2年もかかるのか? というように視座を変えて本質を探さなければ意味はありませんね。

 

■ミッションは変わりつつある

さて、佐宗氏曰く21世紀型企業の多くは自らのミッションを「外の世界に向けて積極的に発信することで、価値を創造するために環境を作り出している。」例えばテスラは「持続化なエネルギーへのシフトを世界中で加速させる」と表現し、メルカリは「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」という具合です。このように生存意義を明確にし、「定義を実現する過程では一時的に赤字を計上することへの理解を株主に求めながら国内外で急速な事業拡大を進めている。」ミッションへの共感が人材やお金を呼び込むわけです。

また、シンギュラリティ大学では「『MTP』(Massive Transformative Purpose:野心的な変革目標)という表現」をとり、ベストセラー「『ティール組織』の著者フレデリック・ラルーは、組織が目指す方向に向かって自立的に進化し続けるために『エボリューショナリー・パーパス(evolutionary purpose:存在目的)を定めることが重要だと説いている。」

「いずれも『パーパス』(Purpose)が登場するように、これからの組織のあるべき姿を考える際、この単語が用いられることが増えてきた。」という。さて、私が今まで言ってきた上記“Mission“ “Vision” “Shared Value”と何が違うのだろうか? 分かりにくいですよね。

 

■21世紀型組織

「20世紀型組織は一言で言うと『囲い込み』を価値創造の拠り所にしている。」「選択と集中を通じて自社の強みを発揮できる陣地を増やし、スケールメリットによりオペレーション効率を高めていくような競争優位性と効率性を重視する経営モデルが前提とされていた。」

それに対して、「21世紀型の組織は『呼び込み』を拠り所にする。」「インターネット上の(いわゆる)プラットフォーマーが代表的」。特長は「組織の内と外を隔てる障壁は低く」、「自分達が知識創造のプラットフォームになり、多種多様なヒト、モノ、カネ、データを呼び込み、チエを生む。すなわち、組織外への求心力を基点とした持続的な知識創造が価値創造のカギを握る。」

当社の重要な事業基盤は顧客ベースの囲い込みによって生み出される価値の維持・創造です。それはこれからも重要な基盤になり続けるでしょう。しかし、それだけで成長し続けることは益々困難になってくると痛感します。新しく起きる事業領域の多くはデータをいかに収集しそれを価値に替えていくかの21世紀型のビジネスモデルです

21世紀型のビジネスモデルの特長は、皆さんもご存じの通り、初期フェーズでは収益は生まず、「ある領域で独占状態になって初めて収穫逓増(コストと売上が比例しない利益率の高いビジネスモデル。限界損益0社会に通じますね。オーダーメイドでシステムを開発する場合は、売上はSEの工数に比例するわけで、収穫逓増の対義的位置づけですね。それはそれで改革の余地は残っていますが・・・。)の状況が訪れる。すなわち、長期的な視野でハイリスク・ハイリターンを目指す」ことです。すなわち、なかなか黒字化の見通しが立たないけれど、突き進むしかないという状況が起こりがちで、従業員を失望させたり、投資家が離散したりするリスクがあるわけだ。

そのときに重要なのが“WHY” 即ち“存在意義なのですね。「“WHY”を不動点として設定した上で、より野心的で実験的なプロジェクトなどを通じて、存在意義を社内外に発信することの必要性が高まっているのだ。」

当社においてもそのようなチャレンジングなビジネスに挑戦しているチームがあります。今後益々増えていくことでしょう。新しいBMの広がりが遅い日本においても、従来の20世紀が他企業がDXと融合せざるを得ない状況になり、21世紀型のビジネスモデルとの融合や接触は避けて通れない状況です。従って、「“WHY”を発信することはすべての企業に求められているといえるだろう。」

 

■パーパスとは何か

21世紀型のビジネスモデルを目指す/目指さざるを得ない企業にとってWHYが重要なのは分かりました。ではパーパスとは何なのか?

「ミッションとは理想と現状のギャップをつなげるベクトルだとすると、そのベクトルは2つある。『自分たちは社会に何を働きかけたいのか』と外側にある終点に重心が置かれたものと、『自分たちは社会の中でどうありたいのか』と内側に重心が置かれたものだ。前者がパーパスであり、後者がアイデンティティである。」

「このように整理すると、ミッションの中には『パーパス型ミッション』と『アイデンティティ型ミッション』があるといえる。」 「パーパス型ミッションは組織が取る行動に主眼が置かれているので『DO』のミッションアイデンティティ型ミッションは組織の状態そのものに主眼が置かれているので『BE』のミッションと言い換えることができる。」

そして、「パーパス型ミッションを具体的に示す行動が分かりやすいので、組織外にいる人達を巻き込みやすい。」 そして、先ほどのように21世紀型の経営モデルは避けて通れないので、組織内外のヒトモノカネを引き付ける力がとても大切になるわけで、パーパスは「それを生み出す基点であり、組織の新しい群れ方を提示する概念である。すべての産業が変革期を迎えたいま、既存のミッションをパーパス型ミッションに翻訳して発信することで、集団としての求心力を高める必要がある組織は多いのではないか。」

そう、“パーパス”とは“自分たちは何をしたいのか”を明確にする“ミッション” “存在意義”の一つなのです。自分や組織の価値を明確にする一つの拠り所(鑑)なのです

 

■最後に

一人一人の“存在意義”が明確になっていて、それが組織ミッション(存在意義)とリンクし、それがエッジの立った表現で明確になり、それが経営の基点となることによって、日々の判断や行動が分かりやすく慧敏になると共に、関係者全員のの思いが共感でき利他の心が芽生え社外の力を巻き込み新しいビジネスが起きることを期待しています。

前にも書きましたが、個人と会社と社会がつながっていることがとても重要で、その基点が“WHY”なのです。