転職の活性化は競争力を上げる  ~アメリカの強さ~

non-compete clause競業忌避義務:通常2年)をご存じだろうか。競業禁止条項とも言われ、企業が従業員に対する雇用契約などにおいて、退職後の一定期間に協業他社への転職や独立して元の会社と競合する事業を行わない義務を負わせる内容の条項のことだ。これはほとんど報道されていないが、米FTC(連邦取引委員会)は4/23付で米全土においてこの条項の禁止を発表した。狙いは、競争を促進し、労働者の基本的な転職の自由を保護し、技術革新を促進し、新事業形成を促進することとされる。これには実は例外がある。年収15万1164ドル以上かつ企業において政策を決定する立場にある上級管理職については、既存の競業禁止条項は引き続き有効とされる。

バイデン政権は、これにより新規事業が年間2.7%増加し、その結果毎年8500以上の新規事業が創出され、今後10年間で最大1940億ドルの医療費削減が見込まれると言われている。

 

アメリカの景気は相変わらず好調だが、一方で事業ポートフォリオ流動性は相変わらずとても高い。例えば、アップルは3月に自動運転EV(アップルカー)の開発プロジェクトを中止し、エンジニアをAIにシフトさせたし、テスラは先月従業員10%削減を発表したと思ったら、5/1にEV急速充電器チーム500人を解雇した。EVの販売が世界的に急速に低迷してきたのは事実として、このように事業を売却したり終了させたり、従業員を削減する動きは相変わらず凄く速い。アメリカの強さの秘訣の一つは明らかにこの点にある。

今回の競業禁止条項の禁止は、今までも高かった優秀な人材の流動性を更に高めることは間違いない。堂々と高額な年俸で競合他社から人材を引き抜けるし、リストラにあってもノウハウや経験を活かせる同業他社に遠慮なく転職できる

これにより、上記のようにイノベーションは加速しアメリカの競争優位性は益々高まるのは明らかだろう。また、年俸は益々上がっていくだろうし、それがインフレを加速させる要素にもなるだろう。

 

このような政策を見ると、アメリカは企業を守るというより、競争を煽り競い合わせることにより成長を促す意図が明確だと感じる。ただし、同時に知財や人材の海外(特に中国)流出は絶対に避ける意図がある。特に、かなりピンチにあるバイデン政権は、若者の支持を集めることに汲々としているとも見える状況において、このような政策を立て続けに押し出しているのも納得する。つい先日、大麻規制緩和を検討していると報道されたが、それも若者の支持を意図しているとされる。

 

アメリカの政策およびその変更は、経済の活性化を蛇口を開けたり絞ったりを場当たりとも感じるようなスピード感で、まるでグラフ上で上下に暴れながらマクロでみれば上がればいいんでしょ的な大仰な姿勢で、実験のように動かし続けるダイナミックさを感じる。正に、やってみてから考えるという「不確実性への向き合い方」だと思う。これが日本には全くない。日本の顕著な特徴だと言える。そう、残念な特徴だ。

丁度ピークの薔薇。近所の住人たちが丹精込めて育ててる。
限られた場所でカラフルな景観を作り出すのはなかなか難しいだろう。
今のシーズンのひとときの喜びのために。いや、育てる喜びも同様なのだろう。
5/11@太陽公園