顧客も部下も。声を聴くことができない企業の将来はない。

先日、私は長年(15年くらいかな)利用しているある施設を退会し、別の同様の施設に入会することにしました。自宅からの距離は離れ不便にはなりますが、そうすることに決めました。その顛末を少し書きましょう。

オープンした時に入会したその施設は、老朽化も進み大分前から徐々にあちこちが壊れたり調子が悪くなったりしてきました。私は気付いた都度、従業員にお話ししたり、投書箱にメモを出したりしてきました。従業員が簡単に治せるレベルのものであればいいのですが、そうでないものは改善もなければ回答もない。私には「無視」としか感じられませんでした。ま、しょうがないか・・・と諦めてきました。でもそれが続くと呆れかえるという感情に変わります。とどめが先日、あるサービスを久しぶりに予約しようと、以前と同様に会員カードにある電話番号に電話したところ、「その電話は使われていません・・・」だって。施設を訪問した際に直接申し込もうとしたら、そのサービスに使う機器が「故障中でいつ直るかは分からない」だって。その後、退会届を出したときに、会員証の電話は通じませんよね、と話したら、「そうなんです」とだけ・・・ どうなっちゃってるの? 顧客とのコミュニケーションがとことん欠如してるのです。サービス業のレベルがここまで落ちるとは。悲しくなります。

 

少し話は変わります。実は、40歳を過ぎた頃でしょうか、勤めていた会社のある事業部でユーザが他社にリプレースされました。リプレースしたりされたりは時々はあることですが、その案件のことが今でも忘れられません。私が担当していたわけではないので、その担当者の上司がその顧客からヒアリングした話を聞いたのですが、一言で言うとその顧客は私たちが勤めていた会社を見限ったのです。顧客は長年多様なクレームや要望を出し続けていたそうです。それを担当者や部門が受け止めず、無視され続けたように感じたのです。そういう経験を続けるとどうなると思いますか? 「もう言っても無駄だ」縁を切ることを決めてしまうのです。そして、当社にはもうクレームも何も言わずに、知らないうちに他社と交渉を始めて、新しい契約を決めてしまうわけですね。顧客の気持ちを知らない担当者は、クレームが納まったと勘違いして、なぜリプレースされたのか分からないと言うのです。全くのピンボケなわけですが、実はこれは「あるある」なのです。クレームがなくなったときが恐ろしいのです。これは「匙を投げた」サインなのですから。

お気づきでしょうが、私が、施設を変えたのとまるで同じ理由なわけです。

 

顧客に向き合っているのか。顧客の心の声を聴いているのか。それを理解できない人が多いのではないかと感じます。もし、顧客の前面に立つ従業員は理解していたとしても、その上司や幹部がそれを無視したり、握りつぶしたり、気持ちに寄り添わなかったりしたら、同様に致命的な結果になります。カルチャーは更に悪いとも言えます。例えば、経営陣の損益改善命令を絶対だと感じ、コストダウンにしか興味のない管理職がいたら、もしかしたら、顧客の声を無視するかもしれませんね。投書箱のクレームはごみ箱行きかもしれません。この手の話はたくさんありますね。業績優先で検査データを改ざんしたり、無理して受注したり、不良品を出荷したりする話は枚挙に遑がありません。皆さんも何度もその手のスキャンダルを聞いているでしょう。ほぼ同根の話です。私が書いた施設は同様かどうかは不明ですが、顧客の満足度の事実を感じる努力をしなければ、企業は皆同じような運命を辿ると思います。

 

ビジネスは、顧客に長期間使い続けてもらうことが重要で、顧客との契約を短期的関係(例えば、目先の利益だけ)で評価してはならないのです。LTV(life time value、顧客との生涯取引)で考えるのがビジネスの王道。新規顧客を獲得するには多額のマーケティングコストが必要です。だからこそ、顧客の声に耳を傾け、常にサービスをアップデートし、長く使い続けてもらう努力をしなければならないのです。

 

ちょっと違った角度の話をします。最近、円安の影響もあり外資(ファンドなども含めて)による企業買収が急増していますね。例えば老舗ホテルもそうです。コロナ禍も影響し売上減少が続きました。幸い最近旅行需要が復調してきつつありますが、そんな中でも不人気は変わらないホテルもあります。なぜなのだろうか? 長年生き残るためのコストダウンしかやってこなかったために、設備は古く、デザイン、清潔感、メニュー、システム等々すべてにわたって時代遅れのままだからです。キャッシュが回らないので、従業員も最低限の数しかおらず、教育も行き届かずモチベーションも低い。再投資するリスクを負う戦略も自信も勇気もお金を借りる信用もない。そこに目を付けるのが投資家なのです。円安により超お買い得に見える企業価値。低金利で借り入れのハードルも極端に低く、これほどリスクのない投資はないと見えてしまう。投資家は低く見えるリスクを負い、投資をし、設備リニューアル、従業員増と入れ替え、トップの交代など、大胆なリストラを行う。まるで新装開店の最新の外資ホテルとして再オープンする。そこには洗練があり、新しいイクスペリエンスがある。残念ながらそうやってお金は海外に流れていく。これは、何もホテル業だけではない。製造業しかり多様な産業セクターで日本が買われていくのです。

変われない日本。リスクに対処できない経営者、従業員。その底流には顧客の声に耳を傾けず、何が求められているかから目を背け、コストダウンのことしか考えない価値観にあるのだと感じます。逃げているとしか私には見えません。近視眼的、挑戦意欲の欠如、感情を失ったただの作業者、そこにビジネスのかけらもない。顧客に向き合うからサステナビリティ―が確保できるのに、それを無視するかのような行動。日本は大丈夫だろうか。

 

更に話は続きます。今まで話した企業と顧客の関係は、実は上司と部下との関係に、とても似ています。突然言い出す「今月で会社辞めます」。その時初めて気がついた。「何も知らなかった」と。

部下の気持ちを想像したことがありますか? きっとこう思っていますよ。

「私の声が聴こえていますか?」「私が見えていますか?」「私の事を知っていますか?」「私のことを好きですか?」って。

僕たちはロジカルシンキングだけで生きてるわけじゃない。だから温かさが大切なんです。だから、共感や寄り添う気持ちが何より大切なんです。そう、リーダーの女性性が大切なんです(前にも書きましたね)。

部下をどのように育てれば、その下の部下を失ったり、ユーザを失うようなことがなくなりますか? あなたが部下の心の声をよく聴くことから始めてください。1on1を心の底から大切にしてください。

 

「聴く」「聞く」の違いの話を少し加えましょう。ご存じでしょうが・・・

「聴く」とは、理解しようと進んで(意識して)耳を傾けることですね。即ち心で聞くことですね。

「聞く」とは、音や声が耳に入ってくることですね。そこに意志は存在しないのです。聞こえちゃうということなんです。

傾聴が大切と言われているのは、結果的に真に心で聞こうという姿勢が部下に伝わることが重要だと言っているわけですね。コミュニケーションとは心で聴くことですね。

冒頭、私が退会した施設にはそれがなかったと感じているのです。

どうすれば、顧客や部下が、担当者や上司が傾聴してくれていると感じることができるのでしょうか。それはフィードバックです。真剣に聴いてくれるだけでも、安心しますが、更にそれに真剣にレスポンスすることが大切なんです。相手は、自分事として向き合ってくれているとを感じます。そして、それが解決したり、理由が分かったり、あるいは心がクリアになったり、スッキリしたり、方向を共有できたりすることが、何より大切なんですね。

それがあれば、退会したり、契約をクローズしたり、退社したりすることは激減するでしょう。

僕がサラリーマンだった頃何度も行った焼き鳥屋さんのランチ。大好きでした。
今は、ビールと共に(^^♪
久しぶりに行ったらすごく味が落ちていた。客が並んでいた景色もなくなっていた。
実は値上げもせずに頑張っているのですが、コストダウンのために品質を落としたのだと思います。戦略ミスで顧客を失っていたのですね。
客はそれを求めていないと思います。
もう行くことはないでしょう。とても残念です。