新しい王道

王道と言う言葉に普遍性のニュアンスを感じるが、企業経営の王道は実は結構変わっていく。昔の王道が今では王道ではないという具合だ。それを王道と言うの? というご意見もありましょうが、そんなものです。

例えば、今から20~30年前。経営の最重要事項は「選択と集中」だった。世界で3位に入らない事業はすべて止めると言ったGEを典型として、経営資源を集中化しないと世界の上位にはなれないという価値観だ。量にものを言わせた超効率的な投資効率を目指さないと生き残れないとばかりに、多くの企業がそれを指向した。高いリスクを飲み込み高額の投資をした者だけが生き残れるという、ハイリスク・ハイリターンモデル。その流れでも、日本の企業は大鉈を振るうことができず、中途半端な投資しかできずどんどん海外のメーカーに置いて行かれた。投資家は日本企業を見限り株価は下がり、企業価値は下がった。半導体や携帯電話、家電やPCなどもそうだった。

それから30年。このコロナ禍において、様子は一気に変わってきた。産業構造の急速な変化によって、一本足の事業がピンチになることイコール企業の生死を分ける状況となったわけだ。では、多角化が正解なのか?

ステレオタイプ多角化を進めるなどと突っ走る企業は、ちょっと考えを改めた方がいいと考える。現代における多角化の意味は、昔のそれとは違うと認識すべきだ。

一言でいうと、多角化のターゲットはデジタルだ。最近10年でテクノロジーは一気に進歩した。クラウドスマホ、AI、IOT、高速ネットワーク…昔とは全然環境が違う。そう、投資が少額でもアジャイル新しい事業をスタートできるのだ。スモールスタート(リーンスタートアップができ、スピーディーでかつ、スケールが容易なのだ。デジタルによって、顧客との距離縮まり、サプライチェーンは完全につながった。モノの流れや顧客の購買動向や嗜好も分かる。そこに3年の時間も巨額の投資も不要なのだ。

DXはリスクミニマムで事業の多角化が可能なのだ。しかし、問題は誰にでもできるわけではないということ。勇気があればできるわけではない。必要なリーダーシップと能力が必要なのだ。そのことは以前にも書いた。

これからは、事業ポートフォリオをDXによって創り直す経営アプローチが、新しい王道になる。

その土台となるのが、デザインシンキングやリーンスタートアップなど新しいプロセスと人材だ。これも書いたね。それができる企業が生き残り、できない企業が生き残れない。

実は、日本のDXに大きな壁があるのが、一人情シスの問題だ。大企業を除けば、事実上情シスなどという組織は存在せず、それこそ「一人」のIT人材しかいない企業が日本の過半なのだ。それで、セキュアなDXができるわけもない。ベンダーにおんぶで抱っこ。実はそうしたくてもお金がないという中堅以下の企業が大多数。それを何とかしないと日本は成長できない。以前に書いたように、アトキンソン氏がいうように中堅以下は合併を進めるしかないとも思える。

ところで、デジタル・トランスフォーメーションのことをなぜDXと略すのであろうか。経産省の和泉さんはこういう。「Transというのは上下が反転するという意味。それを示すのがXであり、英語圏の慣習では、Transの省略はXと表記する。」https://ascii.jp/elem/000/004/025/4025741/

 トランスとは「『反対側』『越えて』『変えて』を意味するラテン語接頭辞。」であるが、もう少し広くとらえると、超越するとか、別の状態へとか、すなわち、「ガラッと変わること」を指している。ビジネスでいうと正に「変革」であり、「改善」とか「進化」とは一線を画する。バイアスを超えて、今までできると思っていなかった新しい価値を生み出す、ということを指す。大切なことは、今まで経験したり学習してきた思考の枠組みに縛られないことだ。テクノロジーの進化によって、今までできなかったことができるようになる。しかし、バイアスに縛られた人の思考では、新しい可能性を気付くことはできないのだ。

 

PS. 先日世界が変わったというような話を書きました。その後、先日聴講できなかった「NEC iEXPO Digital 2020」の「桃谷英樹マネージング・エクゼクティブ」の講演をNEC YouTubeで観た。興味深かった。興味のある方はどうぞ。

https://www.youtube.com/watch?v=meFFYm1brR4&pp=wgIECgIIAQ%3D%3D 

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根を張った苔はそう簡単に生まれ変わらない。@いつものウォーキングコース