自律的に行動できる部下を育てるコツとは

今回は「ジリツ」の話をしましょう。

「ジリツ」には2種類ありますね。「自律」と「自立」広辞苑によると前者は「自分で自分の行為を規制すること。外部からの制御から脱して、自身の立てた規範に従って行動すること」、後者は「他の援助や支配を受けずに自分の力で身を立てること。ひとりだち」とあります。

企業に求められるジリツジンザイは前者が使われます。「自律人材」とか「自律型人材」という言い方をします。しかし、次に述べる目指すべき人材を考えると両方の漢字とも当てはまると考えられます。

 

企業に求められる人材とはこんな感じだろうと考えます。

自分で考え自分で行動すること。即ち、いちいち上司の指示や命令を待ったり、上司の顔色を伺ったり忖度することなく、主体的に行動することができること。

・特に、「How」だけでなく、「What」即ち、向き合うべき課題、テーマを自分で設定できること。

・いかなる圧力や無言の空気を感じようが、正しいこと、正義を貫く行動をとること。あるべき規範を腹に持っていて、それに従うことが最も重要な価値観だと理解していること。

・自分が向き合うべきテーマに対してオーナーシップを持ち、責任を取ること

・多様なステークホルダーとの対話を率先して行うオープンな姿勢を持つこと

・その結果発芽するコラボレーションに躊躇がないこと。

という感じだと思います。

 

では、このような自律人材をどのように育てるのでしょうか。実は、コーチングを通して感じることは、多くの企業が苦手にしていることではないかということです。これは今までにも何度か同様の指摘をしましたが、改めて整理してみますね。

多くの企業には次のようなカルチャーがあり、それにマッチするリーダーを評価してきました。その結果、組織の中でそのようなリーダーがはびこってきました。

リーダーは強くなければならない。言い換えると、「俺についてこい」タイプの部下を「率いるリーダーシップ」を是としてきました。

・別の言い方をすると、「ああしろこうしろ」と指示や命令で部下たちを制御し続けるわけです。部下が間違った行動に出ると、それを否定しマウンティングし、部下を叱り言われた通り行動しろと要求します。

・そのようなリーダーが作る組織が「支配型ヒエラルキーなわけです。

・即ち、指示通り行動する部下を評価し、それから外れた勝手な行動をとる人に懲罰を与えます。

・リーダーの価値観は、「命令」「制御」「支配」「あるべき論」「与える、教える、指示するのは部下のため」というようなむき出しの「男性性」です。

このようなリーダーの元に育った部下たちはどのようになるでしょうか。典型的には、指示待ちになってしまいます。指示通りの行動をしないと懲罰を受けるのですから当然です。考えることを止めてしまうわけです。挑戦などしません。リーダーはリスクテイクの責任を負ってはくれません。部下の視座は目先のこと以外には向きません。その瞬間瞬間のことだけに向き合います。将来どうなるかなどと洞察することはありません。ひたすら、汗と涙と根性と長時間残業でリーダーの要求に応えようと必死に働きます。つまり、「ジリツ」とは真逆な人材が作り出されるのです。

こんな上司はZ世代には全く通用しませんよね。恐らくほとんどのY世代にも通用しないでしょう。

 

しかし、今のビジネス環境は、常に変化のるつぼにいます。顧客や競合はころころ変化し、テクノロジーやビジネスモデルはどんどん変わります。常にアンテナを高くし、学び、情報を統合し分析し洞察し予測し対応しなければなりません。状況によっては目の前で起こったことをその場で判断し対処しなければ競争に負けたり、タイミングを失したら取り返しのつかないことになるかもしれません。よく言われるVUCAがそれです。チームメンバーは皆統合された情報を理解し、対処方法を議論し納得していなければなりません。また、一人ひとりがアンテナになり情報を共有し、一人の力でなく、チームの多様性が総合力になり、それが対応能力を上げます。バイアスがなくなるわけです。それが行動のスピードを上げ、判断の適格性を上げます。

即ち、前記のようなリーダーの元では明らかに競争力を失っていくわけです。

 

しかし、現実的には企業は相変わらず強いリーダーを求め、支配型ヒエラルキーを求めます。それが自律人材を生まないことを理解せず、そう言うリーダーに限って「部下が育たない」と嘆くのです。自分が部下の成長を阻害していることに気付く人は残念ながら稀です。これが実態なのです。

 

では、どうすれば自律人材を育てることができるのでしょうか。簡単に言えば上記の逆をすればいいのです。以前にも書きましたが、即ち、「率いるリーダーシップ」から「導くリーダーシップ」に。「支配型ヒエラルキー」から「尊敬型ヒエラルキー」。「男性性」から「女性性」です。

少し説明したいと思います。

「俺についてこいタイプ」のリーダーシップとは、言い換えると部下は人についていくわけです。その人の顔色を伺って指示を待つのです。その対極にあるのが「導くリーダーシップ」です。リーダーは平時に「目的」や「理念」「ビジョン」「パーパス」などを説き続けます。リーダーの使命は、それらのナラティブ(物語り)を腹落ちさせることです。部下は人についていくのではなく、「目的」についていくのです。「目的」に従い、自分で判断して自分で行動するのです。リーダーは部下の行動を見守り「目的」に向かって行動できていれば、どんどん権限を委譲していきます。その繰り返しが部下の「ジリツ」を実現していきます。

「支配型ヒエラルキー」のリーダーは威圧や攻撃や恐怖で組織を支配しようとします。部下の意見は懲罰の対象になり、そこに心理的安全性は存在しません。その対称にあるのが「尊敬型ヒエラルキーと言われる組織構造です。リーダーはロールモデルであり、尊敬の対象です。リーダーは寛容で、部下との間に良好な関係を築きます。その関係が組織に伝搬し、集団全体が協力的になります。集団の知が育まれ、多様な価値観や経験がすべてプラスに働きます。即ち「真のチーム」が創り上げられます。これが正に行動心理学でいう心理的安全性」です。

このようなオープンな組織は、コラボレーションが起き、イノベーションが起きやすい環境になります。即ち、「率いるリーダーシップ」や「支配型ヒエラルキー」においては、リーダーにとって多様性は邪魔以外の何物でもありません。ところがオープンな組織では多様性はイノベーションを生むエンジンのようなものです。多様性が生み出す化学反応が組織の力になります。

そこで大切なのが、多様な意見や価値観を受け入れる「受け止める力」です。「寛容性」や「利他心」が高く「柔軟」な価値観です。実はこれは「女性性」の特徴なのです。「男性性」はあるべき論を大切にし、「与えたい」「教えたい」という欲が強く、「結果重視」です。そして、「強い者が支持される」と考え「必死にあがきます」。頑張ればなんとかなると心から思っているので、部下にもそれを要求します。実は、多くの会社で起きている不祥事の原因もこれではないかと思っています。これが先ほど書いた「率いるリーダーシップ」や「支配型ヒエラルキー」を作りがちな価値観です。「男性性」が強い人は部下の意見に優しく耳を傾けることが苦手です。即ち「傾聴の姿勢」に欠けた人が多いのです。報告や相談を最後まで聞くことなしに、指示をしがちです。良く見る光景でしょう。また、結果を求める姿勢が強いために、ともかく「頑張る姿勢」を評価し、「汗と涙と根性と長時間労働」を評価しがちです。これでは現代の若い世代の人たちはついていきませんね。

 

ここまで書いてみると気付くことがありませんか? 「指示ではなく傾聴」「部下が自律的に行動できるように支援する」「ミッション、バリューなどを明確にする」「共感を生むナラティブを語る」「権限を委譲する」「D&Iの価値観」・・・ これらは「サーバント・リーダーシップ」そのものなのです。旧来の日本にありがちなリーダーシップでは部下は自律人材にはなりにくいのです。

 

もしかすると誤解する方がいるかもしれませんので、少し補いますね。

決して誤解しないでほしいのは、決して「いい人」になることをお勧めしているのではないということです。リーダーは時に冷徹な判断や厳しいコメントや評価をしなければなりません。「導くリーダーシップ」や「尊敬型ヒエラルキー」「女性性」とは両立させなければなりません

また、権限委譲は放置とは全然違います。見守る姿勢を貫くことです。いつも見ていますよ、というメッセージをどのように伝えますか? それはできる限りフィードバックすることです。暖かいフィードバックを。これを実行できている人はとても少ないと感じます。

 

さて、心当たりのある方が多いのではないでしょうか。また、あなたの上司が正にそうだと思う人も。 人は意志さえあれば行動を変えられます。努力によって変われるのです。これには一種の修行のような努力を要します。しかし、そのリターンはとても大きいはずです。リーダーとしてのあなただけではなく、部下も含めた全員にとってとても大きいリターンになるはずです。

筋肉食堂のランチにはプロテインがつく(左上の白い液体)。
これは「男性性」とは関係ないですよ(笑)。@六本木