スピノザ ~知性と理性はどこに行った~

哲学ブームとトランプ氏

今哲学が一種のブームになっています。ブームというより現代社会が抱える多様な問題に向き合う時に、哲学がその鑑となるという理解が進み、見直されているということではないかと私は勝手に思っています。例えば、2023年NTTは「京都哲学研究所」を発足しました。澤田会長はこんなことを言っています。科学技術の進展と経済的繁栄が、必ずしも人々のウェル・ビーイングや世界の平和に直結しないことが分かった今日、改めて「本当の幸せとは何か」「目指すべき価値とは何か」が問われている、と。言い換えれば「人間とは何なのか」を考えるというような哲学的な問いに答えることが極めて重要なテーマとなっている、ということではないかと思います。

一方で、トランプ氏の暴走によって、自由とは何か、公平公正とは何か、なぜ反DE&Iなのか・・・ など私たちの価値観は凄く揺さぶられています。

そんな時代に見直されているのが、哲学者スピノザです。私は哲学ファンではないし、元々深く勉強してきたわけではありませんが、好奇心に任せてちょっぴり齧り自分なりに解釈しましたので、少々紹介したいと思い書き始めることにします。詳しい方にとっては凄く薄っぺらい話です。トリガーは國分功一郎氏が書いた「初めてのスピノザ 自由へのエチカ」を読んだ(Audible)ことでした。

 

スピノザとは

スピノザ(バールーフ・デ・スピノザ 1632-1677)はオランダ生まれのユダヤ人です。17世紀の近世合理主義哲学者として有名で、その後のカント、ヘーゲルマルクスなどに多大な影響を与えたとされます。彼は当時ひどく弾圧されていました。それは、彼が「神即自然」(神は人格的絶対神ではなく宇宙の法則そのもの)と主張し、キリスト教ユダヤ教や絶対的宗教観に真っ向から反していたからです。その彼は、現代の環境において凄く見直されていると思います。彼の主張は多岐にわたりますが、権威主義の批判と理性による自由・寛容・民主主義の擁護、多様性・包摂・共感の基礎としての対話の重要性、自己や感情の理解によるストレス・悩み・将来不安への対応、環境問題などなど、現代社会が抱える様々な問題に深く係わっているからです。非常にストレートに本質を突いていると思います。

 

知性の力と自由についてこんなことを言っています。

・真に自由になるには、「理性による感情・欲望の理解」「宇宙・自然への自覚的調和」が必要です。即ち、自分自身の感情や欲望のメカニズム(原因と必然性)を理性で理解し、自己を客観視することで真の自由・幸福に到達できる。

「知性の自由」とは、自分自身と現実(自然・神)の必然性を理解し、積極的感情(喜び・愛)を生きる境地です。

人間の束縛については、

人は感情に支配され、「自由の幻想」に囚われがちで、無知や迷信が苦しみを生む

などと主張しています。

本当の自由とは、何の束縛もないことではなく(束縛があることは当たり前)、自己や世界の必然性=原因・法則を知り、納得して生きること

更に、

・多様性・包摂・共感の基礎としての理性的対話が重要。

・独断的宗教や権威主義を批判し、理性による自由・寛容が重要で、民主主義擁護の価値観形成につながっている。

このように、知性や理性があれば、感情や欲望のメカニズムを理解でき、本当の自由を得ることができる。また、理性的対話があれば、DE&Iが理解・実現できると解釈できますね。

 

倫理観と地球

彼の著作である「エチカ」(英語ではEthics 正に倫理、倫理学)で、彼はこのようなことを書いています。

どのように生きれば幸福になれるか。それは知性・理性による自己理解と世界との調和だ、と。

現代に生きる私たちにこんな影響を与えていると思います。

・心と身体は分離不可能で、自己理解や感情調整は「理性の光=冷静な自己観察」によって強化できる。

そう、理性によって冷静に自分と向き合うことが大切だと言っているわけですね。

また、先ほども書きましたが、

自由とは「何も制限されないこと」ではなく「理性によって必然性を理解すること」

そう、制限・束縛はあって当たり前。理性があればその必然性は理解できるはず。自由はそれを超えたところにある。と言っているわけですね。凄く共感します。

 

正に現在、世界各地で戦火が広がり、報復が報復を呼び、相手を指さし罵り合い、自分は正しいというポジションは絶対に譲らず、知性や理性から程遠いレベルの応酬が行われ、「自由」は自分だけのものという価値観が闊歩し、富の再分配は全く進まない。気候変動対策より自国の利益を優先し、世界のサステナビリティは劣化する一方だ。

最近はその現実を指摘する人すら減ってきたように感じる。だから、スピノザが見直されている。知性や理性はどこに行ったのだろうか。科学を信じ、手を携えて社会課題を解決していこうなんて、夢なのだろうか。多党化が世界中で広がり、政治は安定せず、ポピュリズムに走り、本質的な課題はすべて後回しだ。その間に地球は人間の住みにくい星に成り下がっていく。

だから哲学の必要性が高まっているのだろう。

 

と、ここまで書いたら、以前自分を知ることの重要性を書いたことを思い出しました。老子が「自分を知る者は賢者である」と言っているんですね。よろしかったらこれも読んでください。

「他者を通して己を図り直す」 - Heaven's Kitchen / 清水のブログ by Seed Master Consulting

そこをくぐったら理想の地球に変わっていないかな~