思い込み

僕たちの認知能力は凄く思い込みに拘束され、とても狭い範囲に限られている。知識や情報は偏り、知性を支える教養もほとんどの人がとても浅く、客観性の乏しいものだろう。だからこそ、リベラルアーツの必要性が声高に唱えられ、創造性や判断力の向上のためのSTEM教育の重要性が指摘されているのだと思う。私の認知能力もお粗末極まりない。

 

人口が多いとか、個人情報の制約がないとか、外資の制限による守られた市場であるなどにより、中国のDXの進化は世界でも最も速い。そして、実店舗の少なさや、有線ネットワークの広がりがない等、もともとインフラ整備が遅れていたところに、一気にICTの爆発的な進展によって、例えばEC市場が急拡大し、一方でその力の拡大を恐れた習近平氏が規制を強め、急激に利益がシュリンクしたメガIT企業など、相変わらずジェットコースター的に市場環境が暴れ続けている。

そんな中で、EC業界の世界ランキングがWebサイトに載っていた(Top B2C e-commerce companies by GMV 2020(UNCTAD))。僕はECではアマゾンが世界では圧倒的だと思っていた。アリババの成長が急激だろうとも、市場は中国に実質的に限られ、それ以外の世界中をマーケットにしているアマゾンには及びもつかないだろうと思っていた。

しかし、その記事によるとアマゾンが流通総額が年間57,500M$に対しアリババが114,500M$と、約倍の規模があった。僕の想像は全くピントがずれていた。さて皆さん、では楽天はどれくらいだと思います? 4,200M$なんです。アリババの3.7%に過ぎないのだ。携帯事業では躓いている楽天だが、業域は保険や証券などに拡げ、経済圏を拡げてきた巨大企業だ。しかし、世界では全く戦えない。人口の少ない日本の中でいかに(国産)トップを走ろうが相手にならないのだ。もし、アリババが日本に触手を伸ばしたらどうなるだろうか。「あり得ない」と言い切れるのだろうか。そんなことはないよね。ホラーストーリーを考えないと企業の将来はないのだ。僕らは思い込みの世界で生きているのだね。(僕だけかも)

 

先日、ある話を聞いた。日本の大企業の巨大ITシステムのモダナイゼーション(最新のテクノロジーベースに置き換える)コンペがあった。受注したのはインドのソフト開発企業。ご存じのようにインドには巨大なソフトウェア開発企業が何社もある。ほぼ全部北米向けの開発を請け負い、ローコスト、高品質で売上を拡大してきた。北米では顧客から直接大規模な開発を請け負う直販事業で伸びてきた。遅れること10年以上の時を経て、日本のマーケットにも進出してきていた。しかし、ほぼ日本の大手請負企業の下請けだった。日本語を理解する要員が少ないこともネックになった。しかし、じわじわと実力をつけ、いつの間には国内のベンダーに勝ち、大きな商談を獲得したようだ。

僕は10年以上前にインドの大手開発企業を何社も訪問した。その取り組みの戦略性の高さや、技術力の高さ、人材育成投資の大きさや、アメリカへの戦略的な進出方法(どのドメインを狙うかとか、それに必要な技術力を先駆けて獲得するとか)などに目を見張ったものだ。実は、その時僕はインドのソフト開発会社の会長をしていた。その時点では社員は千人に満たない規模で、私が訪問した大手が10万人規模であることに比べ、あまりに小規模で、実力も比較にならなかった。その後戦略転換を志向し足掻くのだけれど、そのきっかけになったのも、多くの企業を訪問し実態を知り将来に思いを馳せたことだった。

同様の感覚を持った人は多かったはずだ。しかし、インド企業が日本において直接顧客から大規模システムの受注をするということを想像していた人は少なかったのではないか。昔、同様にIT市場に韓国のベンダーが突然乗り込んできて、大きな受注をしたものの、日本の因習(顧客の仕様が曖昧とか・・・)に尻尾を撒いて撤退したこととは違うと感じる。10年余じわじわと環境に慣れ、市場にアラインしてきたと想像できるからだ。

 

これらは、一つの例にすぎない。僕らの思い込みは深く広い。それによって市場を見間違ったり、競合環境を見間違ったりする。市場は益々グローバル化、オープン化していく。前にも書いたが、ビジネスパーソンに必要な視座は、ますます「広く見る、深く見る、先を見る」能力が求められるのだ。

映画館でアニメを観たのは何年ぶりだろう。もしかしたら初めてかもしれないと思うくらい記憶がない。やはり、子供じみてるという微妙な思い込みがあったのかもしれない。
本作は最後のシーンにストーリーすべてが結実していると思う。泣ける。