シニア起業の“あるある”

8/6の日経電子版(有料会員限定)(8/21の紙面でも要旨が紹介されている)に「シニア起業、失敗を招く3つの勘違い」(本人も野村証券定年後起業した大江氏が書いている)という面白い記事が載った(日経ヴェリタス8/8号の転載)。少し紹介しながら私の経験を踏まえた感想を書きたい。

企業における雇用延長は大分浸透してきた。とはいえ、勤めてきた企業から飛び出て起業するシニアも急増している。その多くが「個人事業主」いわゆる「フリーランス」だ。中小企業庁のレポートによれば、フリーランス起業家の年齢は、50~59歳が男性30.8%、女性22.8%、60歳以上が男性16.4%、女性4.6%となっている。特に男性はシニアでのフリーランス起業がいかに多いかが見える。女性の場合は圧倒的に50歳未満の起業が多い。男性は定年間近あるいは定年後に会社に属さず自力で起業する人の割合が想像以上に多い。中小企業庁のサイトを見ると、実は起業希望者は減ってきていて、準備を実際している人も減ってきている。しかし、準備をしている人の中で実際起業する人が増えているのだ(いずれも2007年、2012年、2017年の経年比較)。副業が可能になっている企業も増え、安易に起業という風潮ではないかもしれないが、ちゃんと準備して起業している人が増えていると読み取れる。また、そのレポートでは、大企業で経験を積んだ人がそのスキルや知識や経験を活かして、起業という形で新たに活躍の場を求めるのは、多様な働き方の流れの大きなトレンドの一つのようだ。

話は戻る。大江さんの記事にはそうした起業がうまくいかない人の特徴が書かれている。第一に、「見栄にお金をかけ過ぎる」。定年後に起業した人はあまりの嬉しさに舞い上がり、都心にお洒落なオフィスを借りるとか、屋号のデザインに高額をかけるような例だ。私の知っている人でも都心にオフィスを借りている人が確かにいらっしゃる。クライアントのオフィスでミーティングができないような仕事でない限り、要らないと思う。更にこのコロナ禍では不要でしょう。ほとんどオンラインで事足りる。実は私もコロナ禍前にはシェアオフィスを借りようかと考えていた時期がある。クライアントのオフィスをあちこち移動して訪問するのだが、都合によって空き時間が結構できてしまう。その都度カフェなどを探し、PCで仕事をするのだが、当時は空席がなかったりしてカフェ難民のようになる。毎度ウロチョロするストレスを感じ、安価で便利なシェアオフィスを検討したわけだ。しかし、使用頻度に比し高価であったことや都合の良い場所に少なかったり、検討は中断した。更に、その後のコロナ禍。今では全く必要を感じない。

その他、名刺はWebで簡単に発注できるので、テンプレートに従って自分でデザインした。屋号も自分で考え、ドメインも自分で取ったし、Office365も自分で何とかした。起業に必要なデスクやPC環境も、合理的な選択をし必要に応じて作っていった。必要なものは躊躇なく購入したりサブスク契約したり、しかし、必要なもの以外は出費をしない割り切りを大切にした。経理帳簿も自分でつける。経費がほとんどないのは節税的になんだかもったいないな~なんて感じるが、要らないものは要らない。しょうがない。税金はたっぷり払っている。

同氏もこう言う「やるべきことはこれから自分が提供しようとしているサービスや商品の質を高めることである。そのためであればお金をかけてもかまわない。」「価値を生み出さないものにはお金をかけるべきではない。」正に同感だ。

二つ目が「資格を取りたがる」。ちょっと笑う。定年起業にありがちだと同氏が言う。「まずは資格を取ろう」とばかりに頑張っちゃうわけだ。資格を取ったって仕事が来るわけではない。「ビジネスで大事なことは『資格』ではなくて『顧客』なのだ。」法律で資格が条件の仕事もあるが、それ以外は資格は必須ではない。

前にも書いたように「学び」は人生に必要不可欠で、会社勤めをしている時にも継続して自分の知識や能力を高めるために、常に学習を続ける習慣をつけるべきだと思う。その一環で資格にチャレンジするのは大いに結構。しかしシニア起業の場合は、資格があれば仕事が来ると勘違いしている人が多いのかもしれない。大切なのは、自分の情熱は何に向かっているか、自分の価値は何なのか、それを磨くためにどのようなスキルや知識を付加していけばよいのか、などのビジョンを持つことだろう。そして、もっと大切なことが、「顧客の困りごとを理解すること」だ。今まで経験したこと、積み重ねた能力などを持って「あなたの困りごと」を解決できることを顧客に問いかけ、フィードバックを得ることだ。確信が持てなければ、その起業は失敗する可能性が高い。

私も在職中に人財育成に多くかかわり、HR部門などともたくさん議論もし、企業の変革にどのような人財が必要不可欠なのかのビジョンを構築し、コーチングスキルを学習しつつ、何人かのトップにインタビューした。そのフィードバックを持って起業の決心をした。私の仕事に資格は必要ではない。しかし、学習は必要。経験も必要。しかし何より大切なのは「使命感」や「情熱」だ。資格は必要だと思ったときに取ればよい。私は今、あるアセスメントコーチの認定を取得中。これはコーチングに非常に有効だと気付き、それをプロセスに埋め込む決意をし、認定が必要なのでチャレンジしている。

起業して安定軌道に入ろうが、自分を磨き続けなければ価値は漸減し続けるものと心得なければならない。

三つめが「ビジネス交流会に出たがる」だ。同氏いわく、「実はこれもありがちな勘違いである。起業したばっかりのシニアがポケットに一杯名刺を入れて『ビジネス交流会』のような場所に出かけていく、というパターンだ。」もちろん顧客獲得のためなのだが、「顧客というものはそれほど簡単にできるわけではない。仕事というのは信用されて初めてやってくるもの。」「名刺交換したからと言ってそんなに簡単に仕事がやってくるわけがないのだ。」その通りだ。大切なのは信頼関係。特にB2Bであれば信頼なくして契約はあり得ない。即ち長い経験で積み重ねた人脈が大切になる。

私も起業してすぐHPを立ち上げた。友人に協力してもらい作ったのだ。そこに問い合わせができる機能を設けている。まれにそこに問い合わせメールが来る。実はそれが仕事に結びついたことは一度もない。来るのはむしろ売り込みw。即ち、私に何かを買ってくれというもの。それも私を別の人と勘違いして送りつけてくるものが大半だ。私を雇ってくださいと言うものもあった。それが実態、笑えて悲しい真実である。期待していないので構わないが・・・ HPを作ったって顧客は集まりはしない。

私はビジネス交流会に出たことはない。見ず知らずの人に会ってそこからビジネスが広がるとは思えない。あるとすれば、既に信頼関係にあるクライアントから紹介してもらうことだ。今の顧客の多くは、昔からの知り合い。私のことを良く知っている方。私がこんなことを始めたよと話したり、それをたまたま聞きつけた方が「頼みたいことがる」と仰って仕事をさせていただいている。FB繋がりのご縁もある。

大江さんの記事。実に「あるある」と感じる。笑えない事実でしょう。

シニア起業は、経験を活かせる道であることは間違いない。忘れてはならないことは、「自分の価値は何なのか?」「自分は求められているのか?」そして「自分に情熱はあるのか?」「かの役に立ちたいか?」の問いかけに自信を持って「YES」と答えられることではないだろうか。

間違っても、「暇なときに都合よく楽な仕事したいな~」などと考えないことですw。

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夏ももう少し。今年は2度目の梅雨前線が牙をむいた。

毎年のように被害に遭っている地域もある。

最悪の事態を想定して避難の準備など滞りなく。そして早すぎるくらい避難の意思決定を。