ワクチンと尊敬する冒険者

ワクチンによっては、例えば南アで発見された変異種には効かない、などと一部で報道されている。これが真実かどうかはさておき、変異種はこれからも多数出てくるのは確実で、中には本当にワクチンが効果を出さないことも多数出てくるだろう。そんなことを考えていたら、以前知り合った冒険者のことを思い出した。その話に入る前に、ワクチンの話から。

 

■変異種への対応①

世界の研究者はCOVID-19にどう闘いを挑み続けるのだろうか。僕はもちろんその分野の研究者でもないし知見もない。しかし、少し勝手な想像を巡らせてみよう。

これからもどんどん変異種が出てくるとする。その一部は既存のワクチンが効かない。そう仮定すると、その対応策は2つあるのではないか。

その一つは、その都度短期間で新しいワクチンを開発・製造するという考え。ご存じの通り、創薬は実際リリースされる前に長い時間を要する。研究室の中で論理的に効果がある薬などが開発されたとして、それをすぐに量産できるわけではない。動物実験を行い、効果と安全性を立証し、そして人間で同様の実験をする。それにも3段階ある。もちろん、慎重にそして必要なデータを蓄積し安全性や効果を証明しなければならない。そして承認申請を行う。日本の場合は厚労省に対して行う。通常その審査だけでも1~2年要すると言われる。必要なそのプロセスをよく聞く「治験」(国の承認を得るための臨床試験のこと)という。このように、薬などがリリースされるまでに5年以上はかかると言われる。開発期間はAIなどを使って短縮化が進むが、「治験」は慎重に行われなければならないので、時間はどうしてもかかる。今回のワクチンの開発は、国を挙げて超短期間に「治験」を進めリリースにこぎつけた。また、承認は国単位で行われるため、日本では各社のワクチンはまだ承認されていない。今までもいろいろな薬で「治験」が適正に行われていないせいで、リリース後に効果が乏しいとか、一部の人に強い副反応が出るなどということが、あったと記憶する。今回は各国で大量の「治験」を一気に行ったわけだが、一部では65歳以上に接種を勧めないなどいうワクチンもあるが、それは65歳以上の「治験」データがない(あるいは少ない)ということを示しているだけだ。(治験を急ぐためにターゲットを狭めたのかもしれない?)

というように、次から次へと新しいワクチンを開発することは、今までのやり方ではできそうもない。もしイノベーションを起こせるなら、「治験」のプロセスをAIなどのテクノロジーによって革命的に短縮できないか、というぶっ飛んだ案があるのではないか。ふふ、私の創造の話ね。もちろん、ワクチンの開発自体も、今回世界で初めて実用化されたメッセンジャーRNAのようなイノベーションが、更に起きることも期待できないものか。いずれもテック企業の技術力が必要不可欠だと想像する。

 

■変異種への対応②

もう一つが、万能ワクチンができないかだ。そんな夢のようなことができるわけがない、と思ってしまったらお終いだ。人類のイノベーションはそんな夢を実現してきたではないか。

 

■尊敬すべき冒険者

私はある研究者のチャレンジ話をご本人から聴き、すごく感動したことがある。それは、山口大学の岡学長だ。もともと同大学の医学部教授であり、癌の免疫治療のオーソリティーだ。

昔、ペプチドによる癌の免疫理治療の研究成果を、アメリカの学会でプレゼンした時の話。研究者のプレゼンがスケジュールに従って続く。彼のプレゼンが始まると、それまで満席だった部屋がガラガラになった。そう、彼の研究は誰の興味も引かなかった。実現できるわけのない夢の話だと、笑われていたのだ。彼はその悔しさをばねに、研究をつづけ、ワクチン開発の道を切り開いた。当時私が勤めていた会社と共同研究を進め、ついに新会社を起こしたのが2016年のことだった。現在でもその会社は「治験」を続けている。その記者会見の模様が下記の記事。

私たちは、そのようなフロンティアを応援することしかできない。少なくともそのようなぶっ飛んだチャレンジを、否定することなく見守っていたいものだ。

多大なコストや時間をかけることや、実現できそうもない荒唐無稽と思われる(それも勝手なフィルタリングだが)ことに、向き合い続ける人を受け入れないという愚かな考え・価値観を持たないようにしたいと思う。

人類を救えるのは、科学の力だと痛感する。

 

monoist.atmarkit.co.jp

「不可能を可能にする挑戦は勇気ある冒険者によって成し遂げられる。今回の創薬事業への参入は、まさに当社にとって新しい挑戦になる」と記事にあるが、実は私が話したのはちょっと違う。「勇気あるチャレンジャーが不可能だと誰もが思う挑戦を成し遂げる」と言って、岡学長を尊敬を込めて紹介したのだ。上記の話を聞いていたんでね。

 

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冒険者はゴールまでにどのような困難があるかなんて、考えていない。