オードリー・タン氏の包摂

昨年話題になった人の一人が、台湾のIT大臣のオードリー・タン氏だ。同氏のインタビュー記事などに触れると大変インスパイアされる。IQ180の天才で、30代で入閣と聞けば、さぞ切れ味鋭い強いリーダー像を思い描いた人たちは、一様に優しさに驚くという。それは、生い立ちによるものなのかもしれない。同氏がトランスジェンダーであることは周知の事実であるが、天才ゆえに子供のころから虐められていたとか、先天性の心疾患を持っていて、発作を予防するために普段から感情をコントロールすることを余儀なくされて育ってきたなど。そして、20歳の時に自分がトランスジェンダーだと悟り、性転換手術を受けたも、その性格形成に影響しているのかもしれない。

インタビューした人が感じるのは同氏のインクルージョン包摂、即ち包み込む力だ。「誰も置いていかない」というリーダーシップ。「ついてこられる人だけついてこい」というような男性性の高い強いリーダー像の対局だ。デジタル化もインクルーシブだ。とかくお年寄りに優しくないデジタル。それは開発サイドの問題だと寄り添う姿勢を崩さない。

同氏は毎週決まった曜日に、ある公共施設(社会イノベーションラボ)に足を運び、お年寄りや子供たちも含めた市民と話をしているとのことだ。そこで得た市民の困りごとを解決したいのだ。ハンズオンなくしてインクルージョンは成り立たないと痛感する。

皆さんリーダーはすべての部下や関係者に対して、「我々の存在価値は・・・なのではないか」「誰も置いていきはしない」「一緒に歩んでくれないか」と宣言できているのだろうか。それは一人一人を誰も第三者にせずチームの一員として認め、期待し、自律を促し、自覚を促し、皆の心をつなげ、毎日のすべての行動に充実感を感じ、人生を豊かなものにすることにつながるのではないか。それは、最も居心地の良い空間ではないだろうか。