■変革は平時に行う
変革に必要なものの一つがマーケティング力だと書きましたね。森岡毅氏(USJの元CMO)は「マーケティングは『組織革命』である」の中でこう書いています。
「経営資源を消費者のプレファレンス㊟に集中するその能力、消費者プレファレンスを読み解いて会社を勝つ確率が高い焦点に集中させるその働きを、私は『マーケティング』と呼んでいます。マーケティングは、会社を市場(≒消費者)にフィットさせ、消費者の頭の中に“選ばれる必然”を構築し、売り上げを中長期的に獲得できるようにします。我々マーケターは、その“選ばれる必然”のことを『ブランド』と呼んでいます。ブランドは消費者の頭の中に存在して、その相対的な力関係でプレファレンスを決定しているのです。」
ちなみに、私はマーケティングを広義にみて「需要を創造すること」と言ってきました。
㊟プレファレンス:消費者のブランド選択における「相対的な好感度」。購買行動の際に消費者の頭の中にいくつかあるブランドの相対的な購買確率のこと。例えば、洋菓子が食べたいと思ったときに5回に3回は「ベルクの4月」を選ぶなら、プレファレンスは60%だと言います。
ところが、市場は常に変化します。どのタイミングで自社をどのように大きく変革させて市場の変化にアラインさせていくのかは、経営陣が決めることです。その時のことを想像してみてください。前に書いたように、後手後手になってしまった場合は、既に生きるか死ぬかの状況になっているかもしれません。状況は正にカオス。できることは、死なないように今の状況からいかに逃げ出すかだけです。運転資金をどうやって得て、出ていくお金をどこを削るか。撤退事業を決めキャッシュが回る事業だけどうやって残すのかなどですね。生きるためにできることをするのが、経営陣にできる唯一のことです。
これは変革ではありません。手術です。変革はカオスになってからやるものではないのです。できるものではないのです。余力があるときにしかできません。即ち、マーケットを上空から見つめ、プレファレンスの未来を洞察し続ける毎日を送り、常に事業の新陳代謝をし続けるのです。つまり、変革は平時に行うのです。
これは、基本的にB2CだろうがB2Bであろうが同じです。マーケティング・ドリブンな会社しかこの当たり前ができないのです。
マーケティング・ドリブンの会社とは、顧客視点で会社の機能たとえば、製造・販売・保守が回る会社です。ところが、難しい問題があります。それは、顧客が常に正しいとは限らないということです。言い方を変えると、顧客が言っていることを信じてはいけないときがあるということです。顧客は案外近視眼で過去の延長線上で自分が欲しいものを描いています。今の機種より小さいものが欲しいとかコスパが3割は上がってほしいとかです。それで、本当に顧客の困りごとが解決できるのでしょうか。実は顧客は本当の困りごとに気付いていないケースがたくさんあります。それを気付けなければ、本当のマーケティング・ドリブンとは言えないのです。この辺は、破壊的イノベーションで有名なクリステンセンの著作を読んで学んでください。それを気付けず消えていった製品や企業は枚挙にいとまがありません。
■営業プロセスも変わる
今回のコロナ禍によって、B2Bの営業プロセスも様変わりするでしょう。対面を前提とした名刺交換やミーティングは一気になくなり、オンラインが当たり前になりました。多くの人は戸惑い、新規顧客へのアプローチを失っているように見えます。そういう企業はそもそも以前から、顧客とのコンタクトが古典的で、その文化から脱却できていませんでした。VIPへのご案内は手持ちが常識。VIP扱いしている割にはメールアドレスすら知らないわけです。確かにメールアドレスを名刺に載せていなVIPは結構いますね。やたら押し売り的メールが来るのを恐れているからでしょう。VIP扱いしているのであれば、関係は良好のはずですから、電話で秘書や部下の方に聞けば教えてくれるでしょう。メアドすら情報として持っていない営業が、顧客へのコンタクトルートを失った現状、アプローチ手段すら失っているのです。これからはネットベースが当たり前になりますよ。儀式的な古いビジネス慣習は一気に減っていくでしょう。ITを使いこなし、デジタル化した空間やプロセスで個性を発揮できない営業マンは存在できなくなります。管理職のハンズオンも変わります。部下の営業活動に同行できないのですから。管理職も自ら客先幹部にアクセスできなければ、存在価値すらありません。さて、できますか?
ユーザサイド(発注者側)を見てみましょう。対面からの情報がほぼすべての従来型の幹部は、情報量が激減します。かといってネットなどから広く情報を収集したり調べたりする習慣もなく、適切な情報源も知らない。今まで情報提供媒体に登録すら避けてきたのですから。このようなペルソナにどうアプローチするのかを、よく考えた方がいいですね。上質な情報が得られ、それをトリガーに1to1で営業窓口などからonly1の提案が得られるならば、対面の代替になりえますね。今がチャンスなのですよ。在宅で時間を持て余し、生産性が落ちているあなた。上質な情報をどうやって顧客に届けるべきか、よく考えてください。