読むべきレポート

中村伊知哉教授がYAHOOニュースに寄稿したレポートにインスパイアされて少し書きたいと思う。彼は、総務省のあるドキュメント作成の編集委員になっているとのこと。そのレポートが非常に興味深いので是非読んでほしいと。それは、「令和元年版情報通信白書」

私は仕事柄、諸々のレポートには結構目を通してきましたが、もちろん全てではなく、私自身が関与していた団体の関係であるとか、以前勤めていた渉外や政策をフォローしているチームの推薦があったものを読んでいた。その一部は会社の経営陣のミーティングで概要を時々説明もしていた。しかし、彼に指摘の通り、日本のDX化などICTテクノロジーを使ったイノベーションの遅れは、ますます明確になり、同氏の推薦を待たずとも、それはいろいろなレポートで随分と指摘されてきた割には、日本企業の多くの経営陣には届かず、欧米にキャッチアップするどころか、ますます差は開くばかりというのがデータとしても実感としても更に明らかになっている。

「令和元年版情報通信白書」http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin02_02000143.html

概要版を読む限り諸兄にとっては既知のことだと一刀両断されるかもしれない。それは読み手のおごりであるようにも思える。実のところ私もそう感じた。「分かってるよ」と。

本編を読もう。それは読み物としても面白い。例えば、ICT進歩の歴史は、オッサンにとっては歩んできた道ともいえるわけで感動もないかもしれない。しかし、今の若い世代にとっては新鮮な驚きだろう。これらの進歩を見ると、一部の時代を除き世界の中で日本がデファクトを取り損ね、どんどん追従路線でいかざるを得なかったことがよくわかるし、イノベーションの中心にいなかったこともよくわかるのである。それは総務省の自虐的反省をベースにしている匂いは全くしないが、客観的に何を学ぶかを投げかけているようにも感じる。これからの世代はそこから何を学ぶのか?

ITの変化だけ見てもその荒波にもまれ続けてきた身としては、ますますこれからの変化の波のマグニチュードを想像せざるを得ない。メインフレーム、クラサバ、クラウド、エッジ…これから先はどうなるんだ???

日本の相対的位置付けの危機感は言われて久しい。P34~36辺りの話は皆さんも見たことはあろう。しかし、見ただけでは何も残らない。これが実態であり、ICT投資の純減の歴史がそのまま日本の競争力の減退、そしてGDPの逓減に繋がっていると捉えるべきでしょう。それに対して経済界も政府も真にインパクトを与える動きができなかったから今がある。これから良くなるという気配もない。投資は相変わらず減っているのだ。

P39~41の通り、機器の製造はもっと悲惨だ。これもJEITAのレポートはずっと前から指摘しているもので、日本のイノベーションが持続的イノベーションに偏っていたツケ以外の何物でもない。それしかできなかったのである。先進ゆうーざが目の前に存在しないことが致命的なのだ。であれば先進うユーザがいる北米に進出するしかないのに、ICT機器でそのリスクをとった企業はない。

第2章以降デジタル経済の変化の解説が悩ましい。これからどうなるのか?書いてあることに今から投資をしても、ブルーオーシャンを創れまい。もちろん目の付け所のユニークさによりちょっとした優良事業は作れるだろうが、日本は救えない。

第3章プラットフォーマーの議論は最低限の知識として今の経営陣は理解しておかなければなるまい。しかし、これからどうなるのか?景色は一気に変わる可能性もある。これはGDPRなどEUの動きから目を離せない。日本もルールメイキングに政府としても大きな投資や人材の投入を進めるべきだ。これから面白くなるぞ~。こんな仕掛けが活きてくるからなんていう話がどんどん出てほしいものだ。

AI、創薬個別化医療、案外ゲーム、製造業のIOT…など日本の得意領域はまだまだあるはずだ。誰が大胆に投資をするのか? どこの国をマーケットにするのか? 今までの考え方の延長線上に未来はないと思う。

DXの本質は何なのだろうか? 本レポートはその点を深く指摘している。ITとOTのボーダーはなくなるという視点で私も指摘していたが、ITのマーケットは逓減していこうが、OTとの境目がなくなり言い換えるとOT分野に広がっていくので、IT領域は逓減していく状況にはならないと思うのだ。

また、ITの進化とDGPの関係を指摘するいろいろな意見を総括している点でも、とても有益なレポートだと思う。何が正しく、何が間違っているかの議論には正解が存在せず、多様な見解は全て正解なのかもしれない。いえることは、今までの価値観は意味をなさないということ。今までの延長線上の価値観に未来はないということ。経営陣自体が見方を変えなければ生き残っていけないのだ。

デジタル経済の進化について書いたP149辺りからの指摘は、社会学的にとても興味深い指摘だ。我々ICT産業が社会のどのように貢献すべきなのか? 答えは見えているはずなのだが、経済との両立を実現できなければ意味をなさない。限界費用ゼロで企業の経済をどのように成り立たせるのかはきれいごとでは解決しそうもない。しかし、その理想と現実のはざまにしか未来はないのかもしれないのだ。

いささかボリューミーなレポートだが、この渾身のレポートを多くの人(経営陣も若手も問わず)に読んでもらいたいと願う。

さて、DXやXTECHの推進には人材育成も不可欠であるが、そこにも日本の大きな問題がある。大学でコンピュータサイエンスを教えるところはほとんどなく、数学は人気薄、データサイエンティストは枯渇し、理科系人気は地に落ちた。これも一つの原因ではあるが、企業の経営陣の危機感が薄い。だからこそ投資をしない、だからイノベーションが起きない、というのと同様に人材も育たないのだ。育成には時間とお金がかかり、買って来ればよいという短絡思考は通用しがたい。できないわけでもないが、語学の壁も立ちはだかる。

その辺をIPAのレポートが深く指摘している。DXは成果が短期間に出にくく、それを支える人材は枯渇している。積極的に推進することを邪魔する文化も根強く、大胆な変革を進めないと更に危機的な状況になるというような指摘だ。ぜひ多くの人に読んでもらいたい。

「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」

https://www.ipa.go.jp/ikc/reports/20190412.html

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やっと芽が出たミニトマト。もうすぐ水耕栽培のキットに移すよ。実は第一弾に失敗し、種を買いなおしたんだ。Seed Masterの名に懸けて収穫に成功させないとね。