ティータイムに思う

昨日夕方のTeatime、ある公的団体のビルにあるレストラン(先日まで勤めていた会社のそば)で待ち合わせまでの時間を潰していた。そこでびっくりする経験をした。ホール担当の男性が鮮やかな青いシリコンの手袋をしてサーブをしているのです。コーヒーも料理も… もちろんをの手でアイスコーヒーのストローも差して私のところに持ってきます。 そのままスプレイの洗剤を使いながらテーブルを拭いたりも… そしてそのままほかの客にパスタをサーブする。私は気分が悪くなりました。

それでも、もしかしたら火傷など怪我でもしたのかしら? などと思うことにしたのですが、お会計の時に「どうしたんですか? その手?」と聞いてみた。「は?? ああ、水仕事で手が荒れるんですよ」だって。

手が荒れるのは分かる。しかし、サーブするときは手袋を外せよ!!! サービス業の何たるかが全くわかってない。少なくとも私はその店には二度と行かない。

以前に美容院の話を書いた。多くの新米美容師は毎日多くの顧客の洗髪をする。そのせいで手が荒れて、辞めていく人が多いらしい。私は美容院の経営者は、美容師に洗髪時にシリコンの手袋をするように指導すればよいと思う。髪を染めるときはそうしているんだから同じでしょ、と。

それと上記のサーブ問題は根本的に違うのである。私は信じられなかった。

 

不都合な真実を知る

以前から、現在は「人類史上最も変化の激しい時代」だと話してきた。このような時代に企業や組織のトップや幹部の責任は重い。しかし同時に、的確な判断をするために必要な情報が確実に届くことを日々担保しなければ、危なっかしくて安眠できやしない。

昨年10月のHBRにある「リーダーが不都合な真実にたどり着く方法ーMIT Hal Gregersen」が興味深い。インフォシスの共同設立者のナンダン・ニレカニ氏は「リーダーは、コクーン(繭)の中にこもることができます。よい情報だけが入っていくる繭です」と述べている。「社員の誰からも『大丈夫です。問題ありません』と言われたのに、翌日になると何もかもが違っていることがわかるのです」と。

「権力と地位が作り出した『繭』により、社内のトラブルを知らせる第一報が届かなかったら、組織外からの信号、特にかすかな信号が早い段階でトップに届くのは不可能に近い。競争市場の変化が激しい時代において、これは由々しき問題である。劇的な変化が迫っている場合、最初の兆候は市場の周辺での漠然とした出来事に現れるのが通常だからだ。」

トップがあれを出せ、あの状況はどうなったなどとしつこく要求すれば、忖度した情報にお化粧直しされるかもしれないが、情報は届くだろう。しかし、もし要求しなかったらどうなのか。トップは神様じゃない。気づくことなんかたかが知れている。ほとんどのトップはそれ以下の人よりは感度に優れているだろうが、それでも「将来の市場競争を一変させる急展開の兆しにも気づいていない」なんていう話はよくあるのだ。

 

■適切な質問

「このような想定外のリスクを説明する表現の一つとして、『未知の未知』がある。2002年に当時の米国防長官だったドナルド・ラムズフェルドが使って有名になった言葉だ。」

「『既知の知』つまり知っていると分かっているものがある。『既知の未知」つまり知らないと分かっているものもある。その上に『未知の未知』というものもある。つまり知らないと分かっていないものである。難しいのはえてして最後の分野である」

ラムズフェルドが言及したのは軍事的脅威についてだったが、どこからともなく現れたように思える事業への脅威も、同時に極めて危険なものであるかもしれない。」そう、そもそも知らないと気づいていないから突然どこからともなく現れたように見えるのだ。私が以前から指摘しているように「ホラー・ストーリーを想像せよ」と言っているのはこれをさす。「未知の未知」を描くようにチャレンジしなければ危機は不意に訪れるのだ。

「『未知の未知』の領域は、往々にして鋭い質問によって明らかになる。イノベーションの泰斗(たいと:その道の大家として尊ばれる人。第一人者。)であるクレイトン・クリステンセン(私のブログには何度となく登場してますね)が述べたように、『どんな答えにも、それを引き出す質問がある』のだ。ところが、適切な質問を形成するのは難しい。イーロン・マスクも指摘している。『多くの場合、質問をするのは、答えを出すのよりも難しい。質問をうまく言い表せたら答えを得ることは簡単なのです。」と。

GEの元CEOジェフ・イメルトもこう言う。「『集中的な内省が必要な瞬間』に根本的な問いかけを促す強力な文化が必要だ」と。

「イノベイティブなCEOが定期的に情報収集に努めているがそれだけではない。彼らは『CEOなのに間違っている状況』『CEOなのに居心地の悪さを味わう状況』『CEOななのに口を閉ざす状況』へ意図的に自分を追いやっている。そうすることで、適切な質問を形成する可能性を高めている。これが、かすかで極めて重要な信号を聞き取るのに役立つのだ。

 

■間違っている状況

「リーダーはあらゆる問題の答えを出そうと決心すると、自分が知っていることの枠から出なくなる。『未知の未知』の領域の扉を開けようとしているのなら、その習慣を改めなければならない。」

チャールズ・シュワブのCEOであるウォルト・ベッティンガーは「成功している幹部とそうでない人の違いは、意思決定の質ではありません。」と述べている。「おそらくどの幹部も60%は正しい判断を40%は間違った判断を下します。何が違うといえば、成功している幹部は判断の誤りを認識して是正するのが速い。しかし、失敗している幹部は意見を譲らず、自分は正しかったと社員を説得しようとしがちなのです。」リーダーは間違っていることを受け入れなければならないのだ。リーダーたちは自分を材料として、これまでにした失敗したことや学んだことを包み隠さず話しているだろうか

「間違いを認めると、興味深く深刻な事実が指し示されることが多い。ほとんどの人にとって、自分の過ちを受け入れることは、まったくの無知だとみなされたくない気持ちを克服することを意味する。」

そう、トップは無知をさらし、「凄い!!!」なんて思われる必要などまったくないから、シンプルで単純で素直な駆け引きのない質問をぶつけるのだ。

 

■居心地の悪さ

「何かを発見するまでの過程では、必ずと言ってよいほど、自分は有能で状況を把握していると感じられる領域から脱却せざるを得ない。」「自分の得意な領域から遠のくと、自分が間違っていた時と同じく、神経を集中させた状態になる。自分の位置を確認し、不安な状況を鎮めようと苦労するうちに、新しい疑問が頭の中を駆け巡り、何らかの判断を下す前にあらゆる種類の情報を進んで収集しようとする。」慣れた居心地の良い場所にいるといつしかビビッドさを失うものだ。私が異動しろと進める理由がここにある。幹部は率先して得意な領域から出て、新しい目で見て感じて判断しなければならない。そういう発想の転換の繰り返しが、本質を突く質問を生むのだ。

 

■コーチの仕事

さて、このような変化の激しい時代を生き抜くためには、風通しの良い文化や青臭い議論を楽しむ日常を創造しなければならない。そのために幹部は自分のコクーンから出なければならないのだ。常にビビッドで居続けシンプルで本質を突く質問を部下やステークホルダーに投げつけなければならない。

コーチは繭に閉じこもりバイアスにまみれた幹部の目を覚ますために存在すると言っていい。バイアスの対極にいるコーチの適切で本質的な質問は、クライアントにとってはとても居心地の悪いものだ。時には心地よくない挑発もするだろう。クライアントは時にはいらだつ。それでもさらに突き放す。クライアントである幹部は自分で困難に立ち向かわなければならない。

特に経営経験のあるコーチには自らの失敗経験に裏付けられた深い内省がある。だから、何とかしたいという渇望がある。

そのためにコーチは存在する。

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経営は神頼みじゃないw